一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 「いただきます」と丁寧に手を合わせた彼女の左手の薬指には、当然、何もついていなかった。

 少し意地悪したくなって、

「……指輪、してないね。はずさないでって言ったのに」

 責めるように言うと、

「ほ、宝来寺さんだって、してないじゃないですか!」

 慌てた様子で真っ赤になって言った。

 ごもっともである。


「……本当は保存しようと思ったんだけど、うまくできなくて。枯れちゃったんだ」

「あ、私もです。仕事机に飾ってたんですけど」


 コロッケを箸の先で割りながら、何気なく彼女が言う。

 ……飾ってくれてたのか。

 たまらなく嬉しい気持ちが沸き上がったが、冷静に水を差した。


 ――彼女の花に対する優しさかもしれない。

 ――思いやりから話を合わせるために、嘘をついているのかもしれない。


 彼女にとっても特別なものなんじゃないか、という期待は極力持たない。

 自分に都合よく考えすぎると、また、暴走してしまう。




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