一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 何気ない話の中で何度かタイミングを見逃しながら、やっとのことで彼女に小さな手提げの紙袋を差し出した。

 彼女が髪を留めていた、淡いグリーンのヘアクリップ。

 ……と、実はもう1つ。


「え? なんですか?」

「この間、持って帰っちゃったんだ。なくて困らなかった?」

「えーと…………あー! 宝来寺さんが持っててくださったんですね」


 反応から察するに、やはり探していたようだ。

 他人の男が持ち帰っていたことに対する嫌悪感はなさそうで――俺がしたあれやこれやを知らないのだから当然かもしれないが――、ひとまずホッとする。


 反応を窺っていると、心なしか彼女の頬が赤い。

 ずっと彼女の横顔を見ていたからわかる程度に、ほんのり赤く染まっていく。

 ……もしかして、あの時のキスを思い出しているのだろうか……?

 もしそうだったらば、自分のことを、男として意識してくれている、ということなんだろうか。


 ……なんて、俺はまた余計な期待をしている。

 どうしてこう都合のいいように考えるんだろう。

 今日は、そういうんじゃないんだって。


 自分に言い聞かせていると、彼女が“もう1つ”の包みに気が付いた。

 不思議そうに取り出して、「これは?」と問う。


「……気に入らなかったら捨ててくれていいんだけど」


「迷惑かけた、お詫び」


 彼女が包みを留めていたビニールのテープをはずし、“それ”を取り出した。

 小さな白い花と上品なパールで飾られたバレッタが顔を出す。

 どのような反応が返ってくるか心配で、彼女の横顔をじっと見つめていると、


「え。えええええ! もらっちゃっていいんですか!!?」


 予想を上回るテンションに、かえって驚かされた。

 喜んでもらえた、らしい。



< 75 / 122 >

この作品をシェア

pagetop