一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 良かった。受け取ってもらえた。

 自分が選んだものを、「わー」とか「えー」とか言いながら、角度を変えて隅々まで眺めている。

 子どものようにキラキラ瞳を輝かせる彼女を見て、――くさいしダサすぎるから絶対言わないけれど――「君の瞳が何よりも輝く宝石サ」的なことを素で思ってしまった自分が恥ずかしい。


 いつまでも、見ていたい。

 彼女の一番近くで、どんな表情も見逃したくない。



「……萩元さん」


 「へっ」という間の抜けた顔で、彼女はこちらを見た。

 名前を呼ばれたことに驚いているのだと思う。

 自分でもわかっていたが、子どもの頃と同じように呼ぶのは常識的に考えても恥ずかしく、自分のキャラクターを俯瞰して見ても違和感しか感じない。

 だから心の中では下の名前で呼んでいたのだけれど、本人を前にしては、「アシスタントさん」とか「あんた」とか「おねーさん」とか、そういう呼び名でしか呼べなかった。


 でも、これからは。

 過去の自分を彼女が覚えていないなら。

 “ここ”から始めればいい話だ。



「……なんか、廉に電話したみたいだったけど」

「あっ、そうだ、私ったら!」

「ごめんね、代われなくて」

「いえいえ、そんなっ」


 彼女の眉が、八の字に下がる。



「……宿題、調べました」


 ……あぁ、そう言えばそんなことを言ったな。

 紙パックの野菜ジュースをストローで吸いながら、シロツメクサのあの日を思い出す。



「私、“解離性健忘”っていう、病気なんです」





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