一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 切なさにぐっと胸を締め付けられて、我慢できなかった。

 衝動のまま、彼女を強く抱きしめる。

 柔らかなぬくもりを浴びて全身が歓喜している反面、またやってしまったと心は陰った。

 俺はどうしてこうなんだろうと、我慢がきかない自分を責める。


 彼女が周囲を気にして腕から逃れようとしたので素直に力を緩めると、顔全体が真っ赤になっていた。

 彼女も、俺の容姿が好きなんだと思う。

 でもそれは、“俺自身”を好きなわけではない。

 ……勘違いしては、いけない。



「話してくれて、ありがとう」

「え?」

「その、……病気のこと。大変だったでしょ」


 俺の真面目な顔を見て気を遣わせないようにしたかったのか、

「あぁ~……あはは、でもまぁ、本人は忘れてしまってることも、忘れてしまってるので」

 なんともない、とは思えない顔で、なんともないと言った。


 もっと知りたい。

 彼女のことを。

 今の彼女が、どんな人なのかを。


「萩元さん」

「は、はいっ……?」


 名字で呼ばれるのは慣れないようだ。

 いちいち驚く様子が新鮮で、可愛い。



「今度、デートしませんか」


「丸1日オフっていうのはほとんどないから、お互いの空いてる時間を調整して、って形になるけど……こんな風に、また話したい」



 勇気を出して、用意してきた言葉を言った。

 彼女の瞳が大きく開かれる。

 バレッタを渡したときよりも輝きが増して、満点の星空のようにキラキラ瞬いて見える。



「あ、……はい。私でよければ、喜んで」




 うつむき加減のスノードロップ。


 真冬に咲く清らかな姿と重なった。





 スノードロップの花言葉は、


 『慰み』、『逆境の中の希望』



 それから、




 ――――『初恋のまなざし』






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