一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
第5章 木漏れ日ノスタルジア

ドライブデート

 生きていれば、不思議なことも起こるものだ。

 嬉しいとか、幸せとか、そんな漠然としたあいまいな感情よりも、信じられない驚きの方が勝っている。


 今日は“あの”宝来寺伶と、デートの約束をしている。


 大ファンだった宝来寺伶と一緒に仕事ができた。

 それだけでも奇跡のような出来事だったのに、彼は私を知っていて、懐かしそうに抱き締めた。

 思い出すだけでじゅわりととろけだすようなキスをして、ツツジの生垣に隠れるように花冠を編み、小さな白い花のバレッタをもらって、デートに誘われた。


 なんだろう。

 なんなんだろう。


 私の人生に、一体何が起きているんだろう。


 テレビや雑誌で見ていた憧れの王子様。

 彼と現実の世界で会えるようになってから、なんだか恥ずかしいような気持ちになって、部屋の壁に飾っていたポスターとカレンダーをはずしてしまった。

 写真の向こうから見つめられている視線よりも、実際の視線の方が、比べ物にならないくらい熱いことを知ってしまったから。


 あれやこれやと、4パターンほど服を着替えて、ようやくネイビーのブラウスと白のスキニーパンツに決めた。

 デートと言えばスカートなのかもしれないが……急に女を意識した格好をするのも恥ずかしい。

 彼にもらった白いバレッタは、悩んで、悩んで……、つけることに決めた。

 品のいい小花とパールのおかげで、ぐっと女性らしい、レディな印象に仕上がる。



 約束の時間が近づき、スマホの画面と窓の外を交互に確認する回数が増えてきた。

 落ち着きがないのは自覚しているが、しょうがないじゃないか。

 だって、“あの”宝来寺伶なんだもの。

 プライベートで、2人きりで、初めて“デート”するんだもの。

 心の中で「デートだ」と呟いてみても……まだ、実感がわかない。


 そうこうしていると、スマホの画面に『新着メッセージがあります』と表示が浮かんだ。

 『REI』の文字に胸が躍る。もうすぐ着くらしい。


 ブラウスに合わせて、ネイビーを基調にしたビジューでたっぷり飾られたウェッジソールのサンダルを履いた。

 アクセントにスワロフスキー風のオレンジの石がところどころに入っており、初夏らしさがあって気に入っている。

 こういう時だからこそ、としっかり戸締りを確認して、アパートの階段を降りた。




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