一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 5月の緑はとても鮮やかで、私たちは太陽に向かって大きく腕を伸ばした。

 爽やかな空気を思い切り吸い込みたくなる。

 木漏れ日がダイヤモンドみたいにキラキラ輝いて、気持ちのいい場所だった。


「あ! 宝来寺さん、ソフトクリーム売ってますよ! 私、買ってきていいですか?」

「俺ストロベリー」

「えー、私もいちごにしようと思ったのに~」

「? 買えばいいじゃん」

「同じ味2つ買ってもつまんないですよ~。違う味にして、ひとくち交換しましょうよ~」


 1時間弱のドライブを通して、私たちは意外にも打ち解けていた。

 思えばツツジの陰で話した時もそうだったが、宝来寺伶という人は、何気ないやり取りがとても楽しい人だ。

 見た目こそ近寄りがたいが、話してみると案外話しやすい。


「わかったよ、じゃあ俺バニラでいいや」

「あっ、わかります! バニラって場所によって微妙に味違うから、試してみたくなりますよね!」


 どんなことを話そうかといくつか質問を用意してきたのだが、ほとんど出番はなかった。

 車の中で目についたものから、自然に会話が進む。


 彼の車はマネージャーの石神さんと共有して使っていること。

 石神さんとは親戚で“はとこ”同士にあたり、上京してから9年も一緒に住んでいること。

 車の中で流れていたのはシンフォニックジャズというジャンルで、レナード・バーンスタインのファンだということ。

 オフはジムで鍛えたり、俳優仲間とフットサルをしたりして体を動かしていることが多いが、本当はYoutubeを見てごろごろするのが好きだということ。


 話せば話すほど、“モデル界のプリンス”ではなく、一人の人間としての“宝来寺伶”が浮かびあがってきた。

 Live2Dでぬるぬる動く2次元イケメンが、3次元に生きる24歳の男の子に変わる。

 それは、私にとっては喜ばしい変化だった。




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