一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 ソフトクリームを買って車に戻ると、宝来寺さんは後部座席に座っていた。

 ちょうど運転席に日差しがあたり、まぶしかったらしい。

 私の姿が見えると、やはり車を一度降りて、ドアを開けてくれた。

 後部座席に並んで座る。


「あーーん」

「あらあら、大きなつばめのヒナですこと」


 笑いながら、彼の口にストロベリーのソフトクリームをスプーンですくって放り込む。

 ドライブデートに出発するまでの私であれば、きっとまた不意をつかれて赤面していたはずだ。

 しかし、“モデル界のプリンス”宝来寺伶から、“24歳の男の子”に見え始めてから、小悪魔的に振り回されてドキドキさせられていたのが、甘えた仕草が可愛くて可愛くて仕方がない、という風に変わった。


「うーん、うまい。もうひとくち」

「なんか昔よく聞きましたね、似たようなフレーズ」

「いいから、あーん」

 私の持っているストロベリーのソフトクリームがどんどん減っていく。

「宝来寺さん、とけちゃいますよ~バニラ」

「あ、ほんとだ」


 咄嗟に、とけかけた部分にぺろんと舌をつけて、舐めあげた。

 ソフトクリームを食べたことのある人間ならほとんど誰でもしたことがある仕草のはずが、宝来寺さんがやるととても官能的に映る。


――あの舌で、私も……


 味わわれたのだ、と思うと、また体の奥からじゅわりと熱いものがにじみ出た。

 慌てて冷やすように、ストロベリーのソフトクリームを体内にとかす。


「ねえ」


 見上げると、彼の瞳にも、熱いものがとろみを帯びて覆っているようだった。

 吸い込まれそうで、目が離せなくなる。


「俺のも、食べて?」


 そう言ってバニラのソフトクリームを差し出される。

 スプーンは、使わせてもらえないようだ。


 先ほど宝来寺さんがしたように、舌で直接、クリームを舐めた。

 私がソフトクリームならあっという間にとけてしまいそうな、じりじりとした熱いまなざしで見つめられる。


「美味しい?」

「……はい」


 私の考えすぎだとは思うが、官能的な仕草を期待されているような気がして、緊張する。


「ほーら、先っちょも、ぱくんってして?」


 ……考えすぎだとは思うが、宝来寺さんは何もおかしなことは言っていない。……はずだ。

 子どものように純粋無垢な笑顔で微笑む宝来寺さんを横目に、素直に口を開け、優しくはむように尖った部分を持ち去った。


「……うーん、たまらない」

「さっきから薄々感じてましたけど、セクハラですよね、それ」

「あ、バレてました?」

「バレてましたよっ」

 勢いよくツッコむと、意地悪そうな顔で笑って言った。


「萩元さんの経験値を測ろうと思いまして」

「なっ……」

「妬けちゃうなぁ、マジで」


 私の何を想像しているのだ、この人は……!


「付き合った人とか、多いの?」

「お、多くはないですけど、人並みには……」

「へぇ。可愛いもんね、萩元さん」


 さらりと言われて、目をぱちくりさせる。

 可愛い……!? 私が……?

 自分のほうがよっぽど可愛い顔をして、何を言うんだろう。


「可愛いよ、好きだもん。俺」


 あっという間にコーンの部分も平らげ、また、とけそうな視線をよこした。

 冷房がきいているはずなのに、たらたらと汗が流れる。



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