一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 先日データを納品したばかりの、結婚式の写真。

 アルバムを作成するにあたり新郎新婦と打ち合わせをしてきたのだが、その際にサンプルとして第三者に見せてもいいかとお伺いし、許可をいただいた。

 荘厳なチャペルでの挙式と盛大に催された披露宴には、宝来寺さんは出席していない。

 1枚1枚じっくり興味深そうに写真を眺めるその顔は、どこか仕事で見かける“モデル界のプリンス”宝来寺伶の顔になっていた。


「いい写真だね」


 褒めてもらえてホッと胸を撫で下ろす。

 日本のメディアに露出する前は、海外のコレクションでランウェイを闊歩していたカリスマモデルだ。

 そんな人に自分の撮った写真を見てもらえただなんて、少々怖いもの知らずだったかもしれない。


「俺もこういう結婚式がしたい」

「チャペルですか? 素敵ですよね~、ここは特にステンドグラスがとっても綺麗で」

「……そうじゃなくて」


 きゅっと手を握られて顔を上げると、あと少し動けばこつんとあたってしまっていたほど近くに、彼の顔があった。

 iPadを覗き込んでいて気が付かなかったが、真剣なまなざしでこちらを見ている。



「本当に好きな人と、一生に一度の、結婚式」



 “本当に好きな人”という言葉が妙に意味深に響いて、心のどこかがポキンと折れたような音がした。

 ……私はきっと、挙げることはできない。

 “本当に好きな人”がこの先できたとしても……


 元彼・麻生流司の顔が浮かぶ。

 彼も以前、結婚しようと言ってくれたっけ。

 ――いや、正確には別れを告げてからも、会うたびに結婚しようとは言われているんだけれど。



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