一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 彼から送られてきた長文メールを思い出して、軽く眩暈がした。

 実は今夜、彼と会う約束をしている。

 『久しぶりに仕事が早く片付きそうだから、食事でもどうか』と……。

 たまたまその日に宝来寺さんに誘われ、こうしてドライブに来ているわけだが……、本音はこのまま遠くに逃げてしまいたい気持ちだった。


「……どうしたの? 顔色が悪いみたいだけど」


 宝来寺さんが心配そうに顔を覗き込んだ。

 慌てて笑顔を作り、何でもないと手を振る。

 心配をかけたくなかった。……はずなのに。


 気が付いたら、ぽろぽろと涙が頬を伝っていた。

 こちらを見つめる宝来寺さんの静かな瞳に、焦りの色が覗く。

 感情をコントロールできない。

 慌てる気持ちに反して涙はまったく止まらず、嗚咽が漏れ始めた。


「……ごめん、俺、何か傷つけるようなこと言ったかな」


 宝来寺さんがふわりと包むように私を抱き締め、背中を優しく撫でながら言った。

 首元に彼の顔が埋まり、少しくすぐったい。

 深い夢におちていきそうな宝来寺さんの香りに満たされながら、必死に心を落ち着ける。


 宝来寺さんのせいじゃない。

 全部、私が悪いのだ。




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