一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
その時、スマホに着信があった。
宝来寺さんからの連絡に気が付けるようにと、着信音と通知音を最大にしていた上、合流できてホッとしたのか電源を切り忘れていたらしい。
車内に響き渡る音量の着信音に驚いて、跳ねるように宝来寺さんの腕を抜け出し、画面を確認する。
――『麻生 流司』
発信者の名前が目に入り、ドクンと大きく心臓が脈打った。
宝来寺さんに一言断って、スマホを耳にあてる。
「もしもし」
『……お疲れ様。今、話していても大丈夫? 今夜の待ち合わせについてなんだけど』
心臓の鼓動が、不吉に大きくなっていく。
呼吸が荒くなり、首筋に冷たい汗が流れた。
『……雫? どうしたの?』
――会いたくない。
――会いたくない。
――会いたく、ない……。
不意に、後ろから宝来寺さんに抱き締められた。
背中に広がるぬくもりに、心がじんわり癒されていく。
少し落ち着きが戻って、やっと普通に声が出せた。
「……流司さん、今日の約束、また今度でもいい……?」
『いいけど……どうしたの? 体調でも、悪い?』
「……うん」
――元凶はあなただけれど。
……いや、私か。
『また改めて電話するね、お大事に』と、彼は電話を切った。
もう彼の声は聞こえないはずなのに、耳の奥でリフレインしてなかなか止んでくれない。
「……彼氏?」
後ろから抱き締めていた宝来寺さんが、低く静かに訊いた。
「この後、約束してたの……?」
静かな怒りを秘めたようなまなざしは、複雑な色を孕んでいた。
軽蔑、失望、哀しみ、……嫉妬。
感情を無くした綺麗な顔立ちは、尚更冷たく感じる。
時間がずれているとはいえ、ダブルブッキングされたなんて、感じのいいものではない。
ましてや、今日を楽しみにしてくれていたことが、ちゃんと伝わってきていたから。
「宝来寺さ」
「彼氏いるなら、断ってくれてよかったのに」
突き放すような言い方に、心臓が引き裂かれるような痛みを覚える。
「……彼氏が、可哀想だ。俺だったら、……絶対嫌だ」
怒っているような、傷ついているような、泣き出してしまいそうな、そんな複雑な表情で、吸い込まれそうな瞳にまっすぐと見据えられた。
あまりに澄んだ強いまなざしに、引き裂かれた心臓が、ぶすり、ぶすりと刺され続けて、汚い血の色で心が濁っていく。
自分を悪者にしたくないだけだろうか。そうかもしれない。それでも。
宝来寺さんには勘違いされたくなくて、言い訳に聞こえてしまってもいいと、元彼・麻生流司との関係を正直に話した。
……動画の件も、含めて。
宝来寺さんからの連絡に気が付けるようにと、着信音と通知音を最大にしていた上、合流できてホッとしたのか電源を切り忘れていたらしい。
車内に響き渡る音量の着信音に驚いて、跳ねるように宝来寺さんの腕を抜け出し、画面を確認する。
――『麻生 流司』
発信者の名前が目に入り、ドクンと大きく心臓が脈打った。
宝来寺さんに一言断って、スマホを耳にあてる。
「もしもし」
『……お疲れ様。今、話していても大丈夫? 今夜の待ち合わせについてなんだけど』
心臓の鼓動が、不吉に大きくなっていく。
呼吸が荒くなり、首筋に冷たい汗が流れた。
『……雫? どうしたの?』
――会いたくない。
――会いたくない。
――会いたく、ない……。
不意に、後ろから宝来寺さんに抱き締められた。
背中に広がるぬくもりに、心がじんわり癒されていく。
少し落ち着きが戻って、やっと普通に声が出せた。
「……流司さん、今日の約束、また今度でもいい……?」
『いいけど……どうしたの? 体調でも、悪い?』
「……うん」
――元凶はあなただけれど。
……いや、私か。
『また改めて電話するね、お大事に』と、彼は電話を切った。
もう彼の声は聞こえないはずなのに、耳の奥でリフレインしてなかなか止んでくれない。
「……彼氏?」
後ろから抱き締めていた宝来寺さんが、低く静かに訊いた。
「この後、約束してたの……?」
静かな怒りを秘めたようなまなざしは、複雑な色を孕んでいた。
軽蔑、失望、哀しみ、……嫉妬。
感情を無くした綺麗な顔立ちは、尚更冷たく感じる。
時間がずれているとはいえ、ダブルブッキングされたなんて、感じのいいものではない。
ましてや、今日を楽しみにしてくれていたことが、ちゃんと伝わってきていたから。
「宝来寺さ」
「彼氏いるなら、断ってくれてよかったのに」
突き放すような言い方に、心臓が引き裂かれるような痛みを覚える。
「……彼氏が、可哀想だ。俺だったら、……絶対嫌だ」
怒っているような、傷ついているような、泣き出してしまいそうな、そんな複雑な表情で、吸い込まれそうな瞳にまっすぐと見据えられた。
あまりに澄んだ強いまなざしに、引き裂かれた心臓が、ぶすり、ぶすりと刺され続けて、汚い血の色で心が濁っていく。
自分を悪者にしたくないだけだろうか。そうかもしれない。それでも。
宝来寺さんには勘違いされたくなくて、言い訳に聞こえてしまってもいいと、元彼・麻生流司との関係を正直に話した。
……動画の件も、含めて。