一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 宝来寺さんは、非常に落ち着いて話を聞いてくれた。

 そうして一言。


「……それ、元彼じゃなくてストーカーだと思う」


 冷静に言い放った。

 自分でもわかっていたことを第三者にハッキリと言葉にされたのは初めてで、ある程度予想はしていたが、やっぱりショックを受けた。


 彼、麻生流司には、当然ながらもう愛情はない。

 それでもかつての恋人を“ストーカー”だと言われるのは、複雑な気持ちだった。

 付き合っていた頃は本当に大好きだったから、情が残っているのだろうか。


「……あんたが我慢する必要なんか、ないよ」


 宝来寺さんは、証拠を持って警察に相談するべきだと言った。

 動画に関しては、しかるべき機関を頼ってもいいと。

 彼にされていることには、本当に頭を悩まされている。

 怖い。やめてほしい。

 でもどこかで、彼を犯罪者にはしたくない気持ちもある。

 可哀想、だと思ってしまっているのだろうか。

 自分から、自分の都合で別れを告げたことに、罪悪感を感じているのかもしれない。


 「優しすぎる」と宝来寺さんは言った。

 同時に、「甘い」とも。


「あんたが傷つくのは、見てられない」

「あんたを傷つけるようなやつを、俺は許せない」


 そう言って、私以上に怒ってくれた。

 優しいのは、宝来寺さんの方だ。



 妙なデートになってしまったが、そろそろ戻らないと宝来寺さんの仕事に間に合わなくなる。

 私たちは都内に向けて出発した。


 帰りの車では宝来寺さんの苦手なものの話を聞いた。

 第一に、狭いところが苦手なこと。

 バイクは好きだがフルフェイスのヘルメットの圧迫感が恐くてかぶれず、乗れないこと。

 嫌いな食べ物も山ほどあって、食事をさせるのに石神さんが困っていること。


 ……きっと、私が今の悩みを打ち明けたから、同じように弱い部分を開示しようとしてくれているのだと思った。

 やっぱり宝来寺さんは、優しい。


 心が軽くなったせいか、たくさん泣いてしまったせいか、気が付いたら少し眠ってしまっていた。

 助手席から覗き見た宝来寺さんの横顔は、夕焼けに染まって、とても凛々しかった。






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