一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
かつて、愛した人
――クリームソーダが好きだったっけ。
子どもの頃、メロンのクリームソーダが好きだった。
鮮やかな緑色が、しゅわしゅわするたびキラキラ光っているのが可愛くて、さくらんぼの赤と、アイスクリームの白との組み合わせがまた、大好きだった。
太っちゃうから、炭酸飲料も甘いものもめったに口にはしなかったけど、メロンのクリームソーダだけは、特別。
がんばった時、いいことがあった時、友達と出掛ける時。
喫茶店に入ったら必ず、クリームソーダを探したなぁ。
時々レモンのクリームソーダや、透明なのや、水色のクリームソーダにも出逢うんだけど、やっぱり私は緑のメロンソーダが好きで。
アイスクリームがとけちゃうのが嫌でね、でも先に食べちゃうのも勿体なくて、悩むんだよね、あれ。
「そうなんですか」
目の前の小柄な女性が、一生懸命頷いていた。
マグカップを両手で持つ仕草が可愛らしい。どんぐりを手にするリスみたいだ。
……あれ、誰だっけ。
「……私、今話してました?」
「えっ、あ、はい、クリームソーダがお好きだって話を」
……どちら様でしたっけ、と聞く勇気はなかった。
記憶の最後のピースを探す。
「……伶さんも、お好きですよ。クリームソーダ」
……レイさん。どこのレイさん?
ぼんやりとした頭が、レイ、レイ……と数回呟いて、ようやく意識の糸が戻ってくる。
「そうだっ、宝来寺さんは……」
「あ、お仕事中です。私は、付き人の岡田友美です」
ぺこり、と頭を下げられて、彼女のことを思い出した。
“ハッシー”さんと、“ミクラ”さんと、もう一人、“オカダさん”だ。
「……岡田さん、ごめんなさい、私」
「あの、大丈夫です。伶さんにここに一緒にいてって言われまして」
「お迎えに来られるまで、一緒に待ってましょう」と、彼女は微笑んだ。
子どものような声の高さで、か細い。
おとなしそうな人だが、人のよさそうな雰囲気がにじんでいる。
彼女の話を整理すると、宝来寺さんは仕事の現場に私を連れてきて、石神さんと話し合った結果、岡田さんとこの喫茶店で待つように指示されたらしい。
私はしっかり自分で歩いていたけれど、宝来寺さんはとても心配そうに身体を支えて寄り添っていたそうだ。
「石神さん、怒ってました……?」
「あ、ハイ、少し……あ、でも、いつものことっていうか」
彼女は嘘がつけない性格らしい。
眉間にしわを寄せ、射るようなまなざしでジロリと睨む石神さんを想像して、気が重くなる。
そう言えば、とスマホを取り出した。
電源が切れている。電池がなくなってしまったのだろうか。
電源ボタンを押すと、見慣れたりんごのマークが浮き上がる。
しばらくしてパスコードを入れ、使える状態になるや否や、着信が入った。
――『麻生 流司』。
思わずスマホから手を離してしまった。
自由を得たスマホは、ブーッブーッと音をたてながら、テーブルの上で小刻みに振動している。
まだ記憶に新しい彼の姿を思い浮かべ身をすくませていると、岡田さんが慌てた様子で口を挟んだ。
「あ、あの、伶さんが電話は絶対とるなって。電源も切っておいた方がいいって」
「石神さんが、GPSがなんとかって言ってました。場所がわかっちゃうかもって」
背筋が凍り、慌てて着信を切った。
電源を切るまでに、百件を超える着信があったことを知らせる表示が目に入る。
子どもの頃、メロンのクリームソーダが好きだった。
鮮やかな緑色が、しゅわしゅわするたびキラキラ光っているのが可愛くて、さくらんぼの赤と、アイスクリームの白との組み合わせがまた、大好きだった。
太っちゃうから、炭酸飲料も甘いものもめったに口にはしなかったけど、メロンのクリームソーダだけは、特別。
がんばった時、いいことがあった時、友達と出掛ける時。
喫茶店に入ったら必ず、クリームソーダを探したなぁ。
時々レモンのクリームソーダや、透明なのや、水色のクリームソーダにも出逢うんだけど、やっぱり私は緑のメロンソーダが好きで。
アイスクリームがとけちゃうのが嫌でね、でも先に食べちゃうのも勿体なくて、悩むんだよね、あれ。
「そうなんですか」
目の前の小柄な女性が、一生懸命頷いていた。
マグカップを両手で持つ仕草が可愛らしい。どんぐりを手にするリスみたいだ。
……あれ、誰だっけ。
「……私、今話してました?」
「えっ、あ、はい、クリームソーダがお好きだって話を」
……どちら様でしたっけ、と聞く勇気はなかった。
記憶の最後のピースを探す。
「……伶さんも、お好きですよ。クリームソーダ」
……レイさん。どこのレイさん?
ぼんやりとした頭が、レイ、レイ……と数回呟いて、ようやく意識の糸が戻ってくる。
「そうだっ、宝来寺さんは……」
「あ、お仕事中です。私は、付き人の岡田友美です」
ぺこり、と頭を下げられて、彼女のことを思い出した。
“ハッシー”さんと、“ミクラ”さんと、もう一人、“オカダさん”だ。
「……岡田さん、ごめんなさい、私」
「あの、大丈夫です。伶さんにここに一緒にいてって言われまして」
「お迎えに来られるまで、一緒に待ってましょう」と、彼女は微笑んだ。
子どものような声の高さで、か細い。
おとなしそうな人だが、人のよさそうな雰囲気がにじんでいる。
彼女の話を整理すると、宝来寺さんは仕事の現場に私を連れてきて、石神さんと話し合った結果、岡田さんとこの喫茶店で待つように指示されたらしい。
私はしっかり自分で歩いていたけれど、宝来寺さんはとても心配そうに身体を支えて寄り添っていたそうだ。
「石神さん、怒ってました……?」
「あ、ハイ、少し……あ、でも、いつものことっていうか」
彼女は嘘がつけない性格らしい。
眉間にしわを寄せ、射るようなまなざしでジロリと睨む石神さんを想像して、気が重くなる。
そう言えば、とスマホを取り出した。
電源が切れている。電池がなくなってしまったのだろうか。
電源ボタンを押すと、見慣れたりんごのマークが浮き上がる。
しばらくしてパスコードを入れ、使える状態になるや否や、着信が入った。
――『麻生 流司』。
思わずスマホから手を離してしまった。
自由を得たスマホは、ブーッブーッと音をたてながら、テーブルの上で小刻みに振動している。
まだ記憶に新しい彼の姿を思い浮かべ身をすくませていると、岡田さんが慌てた様子で口を挟んだ。
「あ、あの、伶さんが電話は絶対とるなって。電源も切っておいた方がいいって」
「石神さんが、GPSがなんとかって言ってました。場所がわかっちゃうかもって」
背筋が凍り、慌てて着信を切った。
電源を切るまでに、百件を超える着信があったことを知らせる表示が目に入る。