一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 宝来寺さんがいなくなった。

 そう聞いてもピンとは来ない。

 しかし、どんな時も冷静沈着な石神さんが、額から汗を流して、焦っている、……ように見えた。

 こんなことは初めてである。

 もしかしたら只事ではないのかもしれないと、ようやく第六感が働いた。


「いなくなった、って……」

「わかりません。様子を見に行ったらいませんでした。携帯も、車内に」


 口調はいつもの石神さんだが、息が荒い。

 おそらく、車だけでなくその周辺も走って見てまわったのだろう。


「私は事務所に連絡をします。まもなく警察が到着しますので、こちらの件は真壁と対応していただいてもよろしいですか」

「あ、は、はい! もちろん!」

 よろしくお願いしますと早口で言い残し、石神さんは部屋を立ち去った。


 ――宝来寺さんが、いなくなった……?

 幼い子どもではないのだから、理由なく車外に出たりしないだろう。

 となると、彼の身に何か……


 今日起きた出来事を考えれば、想像に難くなかった。

 おそらく、石神さんもそれで動いているのだろう。


 どうすれば。

 どうすればいい……?


 石神さんなら、きっと一番いい方法で動いてくれるはず。

 私が下手に手を出さない方がいいんじゃないか。


 ――――でも。


 宝来寺さんは、私の話をじっくり聴いてくれた。

 怖くて動けなくなったときも、抱き締めて、守ってくれた。

 『あんたが傷つくのは、見てられない』って

 『あんたを傷つけるようなやつを、俺は許せない』って言ってくれた。


 ……私も、彼と同じ気持ちだから。

 宝来寺さんが傷つくのは、見ていられない。

 宝来寺さんを傷つける人は、許せない。

 それが私のせいなら、尚更、黙って見てるなんて出来ない。


 私は、意を決して電話をかけた。




『…………もしもし? 雫?』





「流司さん……、今、どこにいるの……?」




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