一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
小2の頃、エレベーターに閉じ込められたことがあった。
確かあの日は、台風が来ていたんだと記憶している。
ものすごい大雨で、風も強くて、雲が分厚くて、
昼間なのにとても暗かった。
そんな日に限って撮影が長引いて、
へとへとに疲れていた時に乗った、エレベーター。
古い雑居ビルの、汚い狭いエレベーターで、
ただでさえ不気味な薄暗いエレベーターが、
大雨による停電で、止まった。
あの不気味な箱がゴウンと音をたてて止まったとき、
上から見えないストローで、
大きなピエロに空気を吸おうと狙われているような、
そんな圧迫感がした。
ああ、このまま息がしにくくなって、
苦しいよ、苦しいよって思いながら死ぬんだって
もうママにも、おばあちゃんにも会えないんだって
悲しくて、怖くて、怖くて、
涙が出た。
でも、自分には、守りたい人がいた。
いっしょにエレベーターに乗り合わせた、
だいすきな、“しずくおねえちゃん”。
おねえちゃんも怖いだろう。
だから、僕が支えてあげなくちゃ。
男なんだから、おねえちゃんを守ってあげなくちゃ。
……それなのに。
なかなか復旧しないエレベーターの中で、
トイレに行きたくなってしまった。
おねえちゃんの前で漏らすわけにはいかない。
そんな恥ずかしいこと、死んでもできない。
こんなところで漏らしてしまったら、
……おねえちゃんに、嫌われてしまう。
彼女に嫌われるのは、死ぬより、怖かった。
必死でがまんした。
がまんしたけど、ついにその時は来てしまって、
我慢した分、勢いよく漏れ出るまぬけな水音が、やたら大きく聞こえた。
……ああ。
こんなことなら、ひとりで乗っている方が
死んだ方が幾分かマシだった。
おねえちゃんに嫌われてしまう。
嫌われてしまう。
嫌わないで。
嫌わないで。
嫌わないで……。
確かあの日は、台風が来ていたんだと記憶している。
ものすごい大雨で、風も強くて、雲が分厚くて、
昼間なのにとても暗かった。
そんな日に限って撮影が長引いて、
へとへとに疲れていた時に乗った、エレベーター。
古い雑居ビルの、汚い狭いエレベーターで、
ただでさえ不気味な薄暗いエレベーターが、
大雨による停電で、止まった。
あの不気味な箱がゴウンと音をたてて止まったとき、
上から見えないストローで、
大きなピエロに空気を吸おうと狙われているような、
そんな圧迫感がした。
ああ、このまま息がしにくくなって、
苦しいよ、苦しいよって思いながら死ぬんだって
もうママにも、おばあちゃんにも会えないんだって
悲しくて、怖くて、怖くて、
涙が出た。
でも、自分には、守りたい人がいた。
いっしょにエレベーターに乗り合わせた、
だいすきな、“しずくおねえちゃん”。
おねえちゃんも怖いだろう。
だから、僕が支えてあげなくちゃ。
男なんだから、おねえちゃんを守ってあげなくちゃ。
……それなのに。
なかなか復旧しないエレベーターの中で、
トイレに行きたくなってしまった。
おねえちゃんの前で漏らすわけにはいかない。
そんな恥ずかしいこと、死んでもできない。
こんなところで漏らしてしまったら、
……おねえちゃんに、嫌われてしまう。
彼女に嫌われるのは、死ぬより、怖かった。
必死でがまんした。
がまんしたけど、ついにその時は来てしまって、
我慢した分、勢いよく漏れ出るまぬけな水音が、やたら大きく聞こえた。
……ああ。
こんなことなら、ひとりで乗っている方が
死んだ方が幾分かマシだった。
おねえちゃんに嫌われてしまう。
嫌われてしまう。
嫌わないで。
嫌わないで。
嫌わないで……。