出られない51の部屋
……私は、心のどこかで、感じていた。
会った瞬間に、あの笑顔を見た瞬間に、ミケは私とは違うのだと。
笑いたくない時に笑う……なんて、私には理解できない人と同種だと。
でも……今、思う。
ミケは、私と同類だ。
初めてミケの笑顔を見たとき、私が抱いたのは『不信感』だった。
それは『疑心』へと変わり、今じゃ『仮面』だ。
ミケは、笑いたくないから笑うんじゃない。
笑うことで全てを隠していたんだ。
『ミケ』という人間を。
じゃあ……私はどうだろうか。
笑いもせず、ただ無表情で。
でも、無表情で自分を隠していただろうか。
……いや、私が自分をミケに見せていないのは、たまたまだ。偶然だ。
ミケが自分を隠す事によって、私はその後ろに隠れただけだ。
そして、それがまだ続けていられている理由は、ただ一つ。
ミケが、私を知ろうと思っていないから。
この一つだけ。
私がミケのことを何も知らないのと同じ。私達は、自分を隠すために、笑い、笑わない。
そう思った瞬間、私の心はストンと……軽くなる。
不思議なものだ。
こんな事がわかったのに、胸のつっかかりが取れたように、呼吸がゆっくりとなる。
「梓、進む?」
これが人間関係というものなのだろうか。こんなことを、私以外の人は、なぜ続けているのか、不思議でならない。
「梓?」
「……ああ、ごめん。うん、行こう」
本当に不思議でならないものだ。人間関係も……自分自身も。
ここまでわかったというのに、自分の心には、何も新しいものが生まれていなかった。
ミケの事を知りたいという気持ちさえ。