出られない51の部屋
11の部屋
今までと同じように、私とミケは部屋の中央で腰を下ろす。
しかし、私とミケの間には、少し不穏な空気が流れていた。
お互い、何を言ったらいいのかわからなかった。
私は、チラリと正面の扉を見る。
『互いが願いを言わないと出られない部屋』
その文を見て、私は精一杯考えた。今の私の願いを。
「……梓はさ」
私の願い、か……。
「梓は、どうしたい?」
そんなミケの言葉にハッとし、顔をミケの方へと向ける。
「このいくつ続くかもわからない部屋で、俺とどうしたい?」
ミケの質問に、私は少し下を向く。そして、すぐに視線をあげて答えた。
「別に、ミケとどうしたいとかない」
「ははっ、そう言うと思ったー」
いつもと同じ笑顔を見せるミケに、私は少し心の中で安心した。
「ぶっちゃけさ、俺、願いないんだよ」
「……随分、私みたいなこと言うんだね」
私は自分の『好きなものがない』という言葉を思い出して、そう言った。
その言葉に、ミケはクスクスと笑う。
「うん、俺もそう思う。でも、ないんだよね」
「それは、」
どうして、と聞こうとしたが、言う前に答えはすぐ自分の頭の中で出てしまった。
……願い、それがない理由で思いついたのはただ一つ。
もう、願いが叶っているから。
「梓、これからどうしたい?」
私の心の中を見通すように、ミケはもう一度そう聞いた。
そんなミケに、私は静かに言葉を口にする。
「……わからない」
私はゆっくりと、言葉を続ける。
「正直、ミケには聞きたいことがたくさんある。だけど、その答えをミケは答えてくれないのはわかってる。……答えても、どうしようもないから」
きっと、ミケもそうだろう。ミケだって、私に聞きたいことがあるはずだ。
「答えを知りたい。でも、そのためにこれからどうしていけばいいのかが、私にはわからない」
私がここまではっきり言うと、ミケはいつもの仮面を見せる。
「簡単だよ」
そう言って、そっと私に手を差し出した。
「この部屋を出れば良い」
「え……?」
「俺もさ、梓に聞きたいこと、いっぱいあるんだ。でも、聞かない理由は梓と同じ。だからさ……出よう、この部屋を。出たとき、たくさん聞けば良い。その時に、答えが見える場合もあると思う」
「……その結論とこの手の関連性は?」
「協力しませんか、の意味。一緒にこれから頑張ろうよ、梓。今、俺の願いが出たよ。梓と一緒にこの部屋を出たい」
そう真っすぐ、私の目を見て言うミケ。オレンジ色の瞳が、私の瞳を捕まえる。
「梓、俺の事、知りたいんだろ?」
そのミケの言葉に、私は目を見開く。そして、指の先まで血液が通るのを感じた。
……ミケは今、私の事を知りたいと思っているのだろうか。
私は、ミケのことを知りたいと思っているのだろうか。
先ほどまで、心の中に何も生まれなかった。なのに、この数分で、この部屋にきて、生まれてしまうものなのだろうか。
何とも不思議な部屋だ。
まるで、私達のことがお見通しだとでも言うように、文字が綴られている。
「……うん、知りたい。ミケを知りたい。だから私は願うよ。ミケと一緒にこの部屋をでたい」
そう言った瞬間、扉が開く音がきこえた。
そして、私の心の中で『ミケの事を知りたい』と思った瞬間、また新しいものが生まれた。
私の心に、優しく、静かに……ノックがする音が。