出られない51の部屋
39の部屋
変わらない真っ白の部屋に入って、スクリーンに綴られた文を読む。
そして、ミケの方に視線を向けると、ふと目が合った。
「『片方を喜ばせないと出られない部屋』、だって。梓、どうする?」
「……」
正直、ミケを喜ばせる方法なんて全く思いつかない。けど逆に、私がミケに何かをしてもらい喜ぶ、というのも想像がつかない。
「……ミケは、喜びたいの?」
「なんだそれっ。うーん、まあ、喜ぶことを嫌がる、なんてないんじゃない?」
「……まあ、たしかに」
「梓はさ、俺に何かしてもらって嬉しいこと、あんの?」
「……すぐに思いつかない。ミケは?」
「俺? めちゃくちゃあるよ」
ミケはそう即答し、私は少し目を丸くする。
「え、あるの?」
「あるよー。全部言おうか?」
想像つかない量に、私は「いや、いい」と答える。
少し迷い、私は「えと」と、歯切れ悪く言葉にした。
「何を、すれば……いいの?」
「んーそうだなーほんと、選べないんだよなー」
「……私ができる範囲で且つ、一番喜ぶことにして」
そう言うと、ミケは苦笑いを零し「じゃあ」と、私と目を合わせた。
「約束して」
「え……?」
「部屋が全部終わっても、俺のことを覚えていて欲しい」
ミケは、口元だけ笑っているけど、目は真っすぐと、私を見つめている。
「俺がここにいたこと、梓と話したこと、梓と触れたこと、全部……梓には、覚えていて欲しい」
「そんなんで、いいの?」
そんなこと、当たり前だと思っていた。
だから、自然と出た言葉だった。
そんな言葉に、ミケは優しく「うん、それがいい」と、満面の笑みを見せた。
そしてその瞬間、扉の開く音が聞こえた。