出られない51の部屋
8の部屋
『互いが嘘をつかないと出られない部屋』
そう書かれたスクリーンに、私はため息を一つ。
そして、相変わらずの真っ白な部屋の中央に腰を下ろした。その左隣に、ミケも腰をおろす。
「こりゃまた、変なもんがきたなー」
「嘘って、言われてつくものなの?」
「ははっ、たしかに。今から言う事、嘘だってバレちゃうしなー」
ミケの言う通りだ。
なんで、嘘とわかってしまうのに、嘘を言わないとけないんだろう?
そう首を傾げていると、ミケはにやりと、口元をあげる。
「んじゃ、俺から先に、とびっきりの嘘を」
ミケはそう言って、腰を曲げ、私の顔を覗き込む。
そして、不敵な笑みを浮かべて、“とびっきりの嘘”とやらを口にした。
「俺、実は臆病者なんだ」
そう言ったミケ。私は、そんなミケの言葉に、眉間にしわを寄せる。
「……それは、嘘、なの?」
「ん? 嘘だろ? この俺が、臆病者に見える?」
言われてみれば、確かに、だ。先ほどの部屋でも自信満々にシュートを決めたり、不敵な笑みを浮かべている彼は、臆病者なんかには見えない。
だけど不思議だ。ミケの嘘は、嘘にきこえなかった。
それでも……ミケの笑顔は、嘘くさいと思った。
「ほら、次は梓の番」
「……」
嘘、ねえ。
私は、顎に手を当て、少し視線を逸らして考える。
くだらない嘘なら、いくつか浮かんで来た。しかし、考えている私を、にやにやと、不敵な笑みを浮かべるミケに、一発食らわしてみたくなった。
なんとか、この腹立つ顔を、間抜け面にできないか。
私は、精一杯、嘘を考えた。
「ほら早く早く」
そう促してくるミケ。そんなミケにイラッとし、私は眉間にしわを寄せる。
考えてる時間も無駄か。そう思い、私は適当に、くだらない嘘を口にした。
「私、実は人間じゃないんだよね」
そう言った瞬間、扉が開く音がきこえた。そんな音の後には、「なにそれっ、考えた結果それ? くだらねーっ!」って、軽々しい言葉が返ってくると思っていた。笑われると、そう思っていた。けど、ミケの表情を見て、私は目を丸くする。
「……進もうか」そう言ったミケ。
私は小さく「うん」と返事をし、少し前を歩くミケの後ろを歩く。
……なんで、なんで。
あんな、くだらない嘘に。なんで、あんな顔を。
あんな、心底驚いたような顔を。