「英国の月は、暁に映る恋に溺れる」
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暁の空に、ぼんやりと白い月が浮かんでいる。
鳥達の声を聞きながらバルコニーから澄んだ朝の川を眺めるのは気持ちがいい。
この場所に部屋を借りて正解だったと、いつもこの時間だけは唯一自分を褒めたくなる。
好きな小説のヒロインがリバーサイドマンションに暮らしていて、彼女への憧れだけでこの部屋を借りた。
都会の真ん中、1LDKのマンションはさすがに家賃が高い。新築ではないけれど、高層ではないけれど、それでも同年代の女性達よりは少し背伸びをしているつもり。
26歳で恋愛未経験。そういう劣等感を払拭したくて背伸びをした。
私の恋はいつも小説の中だけだった。
胸の高鳴りも、酷く傷つくことも本の世界のホログラムだった。
でも、文章から紡ぎ出される想像の世界は私の中で現実世界と見事にリンクした。
架空との境界無く、小説の世界に惹き込まれる。
昼夜を忘れて物語の行く先を辿る。
学生時代に夢中で読んだ恋愛小説は、温かく、眩しくて、ささやかな風景さえも煌めいていた。
いつしか、私も本当の恋をーー。
充見 紘成先生の小説は、今も私に夢を与え続けてくれる。