恋はミステリー~会社編~
『おいおい、大丈夫かよ』
『あー、おはよ』
『寝坊丸出しだな』
『う、うるさいな』
『しっかりしてくれよ、何かと同期ってだけでセットにされるんだから。俺までだらしないと思われるだろ』
『へーへーすいやせんね』

同期入社の高橋が声を掛けてきた。
唯一の同期なのだが、なにかと突っ掛かってくるイヤなやつだ。
とはいえ同期はセットで扱われやすいのは事実であながち高橋の言うことも間違ってはいない。
逆だったら私も文句のひとつも言っていたかもしれないくらいだ。
身長が高く爽やからしい高橋は後輩女子からの人気がそこそこあるようだ。
私は俄然納得行かない。

あれ、高橋、今日ネクタイしてない。
今朝の謎のネクタイのせいでいつもは気にならないことが無駄に気になってしまった。

ドン

『わっ』
『あ、すいません』
『いや、こちらこそ!』
『大丈夫ですか?』
『全然!大丈夫』
『そうですか』
『うん』

後輩の山下くん。
悟り世代ど真ん中みたいで、クールでなにを考えてるかよく分からない子。
仕事もそつなくこなし、必要以上に首を突っ込まないドライな印象。
ヒョロっとしているけど重めのくしゅくしゅマッシュショートな髪型が可愛いと実は私は思っている。
本人に言ったことないけど。
言ったところで「そうですか」って言われて終わりそうだし、そのあとどんな顔すればいいか分からないんだもん。
もしかすると彼が社内で一番ミステリアスかもしれない。
プライベートはどんな感じなんだろう。

あれ?山下くんもネクタイしてない。

『楠見さん、おはよう』
『あ、おはようございます』
『大丈夫だったかな?』
『あー…はい?』
『ものすごく酔っぱらってたから』
『すいませんでした!』
『いや、会社に来れただけ良かったよ』

部長の加賀さん。
大人の包容力が半端ない。
仕事も出来て面倒見もいい、まさに理想の上司って感じ。
奥さんとは死別しているため独身となっていて、部長世代のただの独身男性よりも圧倒的に女子社員人気が高い。

いい男なんて存在しなくて、女が、いい男に育てるんだっていつだったか聞いたことがある。
きっと部長の奥さんは素敵な方だったんだろうな。
奥さんの内助の功があったからこそ、今の部長があるんだと思う。
そして、その完成された超優良物件に入居しようとこぞって女子たちが群がってるわけだ。

気持ちは分かる。
相手にバレないようにこっそりと好みの男に育てあげるのって中々骨が折れますもの。


あれ?部長もネクタイしてない。

『あ!遥香さん、おはようございます!』
『おん、おはよー』
『今日眼鏡なんすね』
『あーうん』
『なんか新鮮!可愛い!』

彼は新入社員の増田くん。
可愛い。犬みたい。あと可愛い。
それから可愛い。


あ、増田くんもネクタイしてない。

『楠見ちゃん』
『あ、清水さん』
『あのさ、これ』

バッと清水さんの手からあるものを勢いよく奪い去る。

『な、どどどうして?』
『さあ?俺の鞄に入ってた』
『そそそれはお邪魔しました』
『ふっ、かーわいー』
『……ひっ…!』

距離の近さと自然なボディータッチにビクビクする。
頭にポンと手を置いた流れで顔周りを擽るように手が優しく触れて去っていく。
この人マジでセクハラだといつも思う。
ただしイケメンに限るを体現いているため、みんな惑わされてるけど、昨今のこのご時世普通は訴えられたりするレベルだから!

とにかくエロい雰囲気でアダルティなイタリア系ハーフらしい。
異国の血を言い訳にベタベタするのは頂けない私だよ。


清水さんはネクタイをしていた。
なんとなくホッとする。
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