恋はミステリー~会社編~
『ふごごっ、ふごごごご!』
『むぐ、ふいががががべぼ!』

肉を頬張りながらも言い合いは続いていた。
正直何言ってるか分からないけどお互いフィーリングで通じあっているって感じ。
なんか……とってもいい雰囲気なんじゃないの?

結局ほとんど会話にならないまま全力で肉を食べ、最終的に『お前に奢られる筋合いはない』と当初と話がすっかり逆転してしまい一円単位までキッチリ割り勘になった。

何この時間。

ん?っていうかなんで高橋なんかと肉を食べてたんだっけ……
確か高橋のことをリサーチしようと……

ああ!なんてこった!

途中から頭に血が上っちゃってスッカリ忘れてた!
恋愛運が上がっても運を使いこなせてないよ、私。

明日こそ!高橋について調査せねば!
しかし恋愛ブランク長すぎる故、また今日と同じ過ちをおかしかねないわ。

しっかり予習しておかないと!
この恋愛赤本(少女漫画)で!
東京一のいい男に恋の願書提出しちゃうぞ☆

『あー、眠い……』
『うわ、なんつー顔してんだ』
『ん』
『あんだけ肉食っといてなんで逆にやつれてんだよ』
『そうかい』
『うわ、一気に老け込んだな』
『うるせー!うるせー!あっちいきやがれってんだ』
『へいへい』

まったく。今は高橋のリサーチで忙しいんだから高橋に構ってる暇なんてないんだよ。
間の悪い男め。

ああ!やってもうた!
なに高橋追い払ってんだ!私は!
眠すぎて全然頭が働かない!

『あー、楠見さん』
『なに!?』
『あー、うん』
『あっ、ぶ、部長……!』
『い、いや、いいんだ』
『す、すみませーーー!』

部長は少し怯えた様子で私から足早に離れて行った。
加賀エンジェル……
ツゥーっと一筋の涙が頬を伝う。
本当にごめんなさい……

『はぁ』

トイレの個室内でため息をつく。
なんでこうなんだろうね、私は。
自分の情けなさにトイレの壁にガックリうなだれる。
基本的に人付き合いが苦手で引きこもり気質のせいかストレスが高まると一人になりたくなるのだ。

『ねーねー、聞いてよ』
『なになに』

ちょうど昼休みなので遠巻きに聞こえていたざわめき声がトイレに近づいてくる。

『さっきね、倉庫から資料取ろうとしたときに手が届かなくて困ってたら~』
『うん』
『高橋さんが後ろからヒョイって取ってくれたの』
『えー!まじ!?カッコいい!』
『そーなの!素敵だよねぇ、高橋さん』

はん!どこがだ!
私が困ってた時は「資料取ってくれたのかな」って思ったらそのまま持ち去りやがって!
「は?必要だからとったんだけど」
とか抜かしやがって!
私のほうが先にその資料必要で取ろうとしてたのに!

『私狙っちゃおっかなぁ』
『確か、今は彼女いなかったよね』

なぬ!そうなのか!

『そうなの!あんなにカッコいいし、フリーならいくしかないっしょ』
『うんうん、いいと思うよ!』
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