恋はミステリー~会社編~
かわいい子と二人っきりなんて潤うわ~。
山積みになっているダンボールを地道に一箱ずつ確認していく。

『増田くんはさ~、仕事慣れた?』
『あー、まあ、ボチボチですね』 

オッサンみたいな返答だな。

『毎日覚えることばっかりで正直余裕ないなーって感じなんですよね。大まかな作業の流れは見えてきたんすけど、細かく理解出来てないから今やってる作業がどこのお客さんに繋がっていくのか分からなかったり、一連の作業が指示をもらわないと出来なかったり』
『あーねぇ』

ちょっと意外だった。
明るく元気な働き姿を見ていると無邪気に時の流れに身を任せているようで、そんなに生真面目に悩みながら働いていたとは思っていなかったから。

『ま、時間が経てば嫌でも覚えるから大丈夫!時間が掛かっても正確なのが私はいいと思うんだよね。焦らずミスしないように頑張ろ!』
『はいっ!』

うん、素直。かわいい。

『遥香さんって高橋さんと付き合ってるんすか?』
『は……?』
『なんか仲良さそうじゃないっすか』
『どこが』
『え?楽しそうに話してるのをよく見かけるんで』 
『全然楽しくないわ』
『でも二人とも一番よく喋ってる相手っすよね』
『まあ、同じ部署で唯一の同期だからね』
『あ!そうだったんすね!』
『あっ!増田くん的には高橋ってどう思う~?』
『どう……っすか?なんか漠然としてますね』
『うん』
『優しいっすけど、壁があるなーって感じですかね』
『壁?』
『自分にだけなのかみんなにそうなのかよくわかんないっすけど、あんまりプライベートが見えないっていうか』
『山下くんの方がプライベート見えなくない?』
『そうっすか?山下さんの方が分かりやすい気がしますけど』
『えー!?』

なんだろう。ジェネレーション的なやつなのかな……

『山下さんにはたまーにカフェに連れてって貰うんすよ』
『え、なにそれ!山下くんって社内の人と出掛けたりするんだ』
『甘いものが好きらしいんですけど、一人で女の子がいっぱいいるお店に入れないらしいっす』
『かわいいな』
『たまたま行列が出来てるカフェの前を通りすぎようとしたときに山下さんとバッタリ会って、なんかモジモジしてたから一緒に入ったんすよ。それからちょくちょく連れてってもらうようになったんす!』
『へー、まじで意外』
『あー、でもそれが無かったら今ほど山下さんのこと分からなかったっすね』
『そうだよねー、マイペースだもんねあの子』
『そっすねー。一人の時間がないと死ぬらしいっす』
『命に関わるの!?』
『なんでも自分の中だけで処理したいみたいで吐き出すことがないからどんどん蓄積されてって「うわーっ!」ってなるらしいっす』
『うーん、分かるような分からないような……』
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