赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「これは感服した。シェリーは先進的な考えを持っているのだな」
自身の顎をさすりながら、手放しで褒めてくれるスヴェン。熱弁したことを少しだけ恥ずかしく思いながら、気持ちを落ち着けるようにカップに口をつける。
ダージリンの繊細な香りが鼻腔を通り抜け、ほっと息をついた。
「勉強が武器になるのか?」
カップを受け皿の上に乗せたアルファスは、揺れる瞳で尋ねてくる。それを見ただけで、彼に思い悩んでいることがあるのだとわかった。
軽々しく答えることはできないけれど、自信をもって言える。
「必ず、なります」
それが口だけにならないように、シェリーは身の上話をすることにした。
「両親が流行り病で亡くなって、このローズ家は潰えてしまいました。財産も地位もなくした私に残ったのは、中流階級ではあったものの受けることができた読み書き、算盤と教養です」
「それを武器に、お前はカヴァネスになったのか?」
「はい、アルファス様。その通りです」
「自分の身を不幸とは思わないのか? 望んでカヴァネスになったわけじゃないだろ」
その問いは、アルファスの思いそのものを映しているように聞こえた。
もしかしたら、国王になったことを不幸だと思っているのかもしれない。望んでなったわけじゃないと、自分の立場を憂いているのかもしれない。
そう思ったシェリーはおもむろに立ち上がり、向かいに座るアルファスの前にしゃがみ目線を合わせる。
何事かと目を丸くしている小さな国王の手を無礼とは思いながらも、やんわりと握った。
「確かにこのような目に合わなければ、私は孤独にならずに済んだのでしょう」
「ならやっぱり、お前は不幸だと思って……」
「いいえ、違います」
首を横に振りながらアルファスの言葉を遮って、紅茶のカップに視線を向ける。
「先ほどの紅茶の入れ方は、かつてローズ家の執事を務めていた者に教えてもらいました」
唐突に紅茶の話を始めるシェリーに、アルファスは訝しむような顔をした。
そんな彼にくすりと笑みをこぼして、家族同様に大切な存在である使用人たちの姿を思い出しながら続ける。
「両親を失う前の私は紅茶の奥深さ、洗濯、料理の仕方さえ知らなかったのです。だから、私に生きていく力をくれた両親や使用人、カヴァネスとして子供たちの未来を作る道を与えてくれた運命に感謝しています」
これまで経験した悲しい別れも、地位を失うという惨めさも、不幸という言葉で片づけてしまいたくない。
その経験があったからこそ、シェリー・ローズという人間は強くなれたのだから。