赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「そうそう、たんまりと大公殿下から功労金をもらってね。だから、議会で彼を証言台に立たせるのはどうだろう?」


 ウォンシャー公爵はそう言うけれど、もし虚偽の診断をしていたとしたら自分も罪を問われることになってしまうので、わざわざ証言台に立って本当のことを話すとは思えない。
 シェリーは困惑気味に、疑問を口にする。


「メドレスさんは、証言してくださるのでしょうか?」 

「ただじゃ無理だろうね。でも、金で動くヤツはそれ以上の対価を払えば簡単に動く」


 意味深に笑ったウォンシャー公爵は、どういう意味かと首を捻るシェリーに向かって「金と身の安全だよ」と教えてくれた。


「ならば、これからメドレスの邸に行くぞ」


 席を立ちあがり、スヴェンはウォンシャー公爵を見下ろす。自分はまたアルファスと留守番になるのだろうか。

そんな切なさが胸を支配しようとしたとき、ウォンシャー公爵は陽気に「なら全員で支度しないとね」と言った。


 もちろんスヴェンは片眉をピクリと震わせて、馬鹿なことを言うな、とでも言いたげにウォンシャー公爵を見下ろす。


「ここに彼女たちを置いていって、その隙に邸を襲われたらどうするんだ。側に置いといたほうが安全だと思うけど」


 ウォンシャー公爵の言葉に納得できないのか「だが……」と渋っていたスヴェンだったが、最終的には重い首を縦に振った。 


「仕方あるまいな」

「あぁそうだ。メドレスは大の女好きで有名だから、シェリー嬢には男装してもらうよ」



 自分に話を振られると思っていなかったシェリーは「へ?」とウォンシャー公爵に気の抜けた返事をしてしまう。

すぐに咳払いをして「だ、男装ですか?」と聞き返した。


「メドレスは綺麗な女を美術品みたいに飾って侍らせる悪趣味な男なんだよ。君のような美人は間違いなく標的になる。今回の証言台に立つ取引の交渉材料に使われかねない」


 メドレスがどんな男かは存じないが、スヴェン以外の男のものになるなど想像するだけで恐ろしかった。

 椅子に座りながら思わず身を震わせるシェリーの側にスヴェンがやってくると、強く肩を引き寄せられる。


「お前を連れていきたくはないが……やむおえん。俺の側を離れるなよ」

「あっ、はい」


 心底嫌だと、スヴェンの顔には書いてある。それほどまでに大事に思われていることを知ったシェリーは顔を綻ばせた。

 その様子を見ていたウォンシャー公爵は、感心するように口笛を吹く。


< 101 / 135 >

この作品をシェア

pagetop