赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「おふたりさん、お取込み中のところ悪いけど、そろそろ出発しますよ」

「僕のシェリーに、軽々しく触れるな!」


 頬をぷっくりと膨らませて怒るアルファスに、スヴェンは「シェリーは私の未来の妻ですから、他をあたってくださいね」とやんわり牽制した。


「大人げないぞ、スヴェン!」

「シェリーのことに関しては微塵も譲れないのですよ、アルファス様」


 スヴェンの発言に心臓が壊れそうなほど脈打ってさらに顔をうつむけるシェリーは、メドレス邸に向かう馬車の中でもしばらくみんなの顔が見られなかった。




 ウォンシャー公爵の所有する荷馬車で三時間半ほどかけて城下町まで戻り、午後二時頃に目的地に到着した。

 門番の許可を得て馬車のまま白亜の噴水を中央に構えた広大な庭を抜けると、パルミーダ邸の本館が見えてくる。

館の外観は白で統一されており、ツルを巻くような装飾が施された柱に幾何学模様のステンドグラスの窓など豪華絢爛な創りになっている。


 館の入り口で馬車を止めて、トルメキ産の赤ワイン十五本を使用人に渡していると、そこへ腹が樽のように膨らんだ中年の男が現れた。

 男は上質なベルベット製の赤のジェストコールに黒いズボンとブーツを履いており、ボタンは全てダイヤモンドで出来ている華美なものを身に着けていた。


「やぁメドレス、約束のワインを届けに来たよ」

「なんと! ウォンシャー公爵が直々に来てくださるなんて、私も出世したものですね。貴族になると、庶民との格差を思い知りますな」


 移動中の馬車で聞いた話なのだが、庶民出身のメドレスは優秀な医術を買われて王医に上り詰めたのだとか。

退任時には勤めを果たした功績を称えて公爵の進言により、アルファスから伯爵位を賜っている。

爵位を授与したアルファスは父の死の直後でいきなり国王に即位したために、当然このときのことを覚えてはいなかった。


 庶民でありながら五爵位と呼ばれる侯爵、辺境爵、伯爵、子爵、男爵の中で三番目の位を意味する貴族の称号を得たメドレスは医院をあちこちで営んでいる。


 完全に自分の地位を誇示するような発言に、隣に立つアルファスが「過去に戻れるなら、このような馬鹿者に爵位など与えなかった」とつぶやく。

シェリーは慌ててその口を手で塞ぎ、苦笑いした。 

 その頃は国王としての自分に疑問を抱いていた時期だろうから、国政も大公殿下に任せっきりで興味もなかったのだろう。でも今は国王としての自覚をもってくれているのがわかり、嬉しくなる。


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