赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「メドレスに折り入って、相談があってね」
声を潜めてウォンシャー公爵がそう言えば、単純なメドレスは高貴な方からの相談に優越感を滲ませた笑みを浮かべた。
「もちろんです! ささっ、中へどうぞ」
自ら応接間に案内してくれるメドレスの後ろをウォンシャー公爵とスヴェン、そのまた後ろをシェリーとアルファスがついていく。
ふとスヴェンがこちらを振り返って、「ここが弱くて助かった」と口パクで頭を指さした。
それにアルファスが吹き出しそうになったのをシェリーが察して、慌てて手で口を塞ぎ阻止する。
(もう、スヴェン様ったら)
咎めるように軽くスヴェンを睨めば、「すまない」と口パクで肩をすくめた。
少しして重厚感あふれるワインレッドの壁紙に相反する金縁のソファー、シャンデリアの光を目が痛むほど反射させるガラスのテーブル、自分をあきらかに美化して描いただろう肖像画が飾られた部屋に案内される。
ひとつひとつの調度品は豪華で効果であることがわかるが、統一性や色味のバランスが悪く気品に欠けた。
向かい合って配置されている座り心地のよさそうなソファーに、ウォンシャー公爵とメドレスが腰かける。シェリーとアルファス、スヴェンは壁際に控えるように立った。
「さっそく本題に入らせてもらうけど、前国王の死因は本当に心臓発作だったのかい? 既往歴も特になく健康だったのに、その診断が釈然としなくてね」
ウォンシャー公爵はいきなり核心の真相を追求しに切り込んだ。空気が張りつめ、さきほどまで上機嫌だったメドレスの顔は笑顔のまま固まる。
それに気づいていながらも、ウォンシャー公爵はトングでシュガーポットから角砂糖を取り、出された紅茶に落としている。
「なっ……んのことやら、さっぱり」
優雅に紅茶を啜っているウォンシャー公爵を畏怖する眼差しで見つめながら、メドレスはしらばっくれた。
メドレスのあからさまな動揺は、誰の目から見ても後ろ暗いことがあると主張しているようなものだった。
茶番は終わりだとばかりに、ウォンシャー公爵は決定的な発言を口にする。
「あれは毒殺だ。君は知っていて事実を隠蔽した。それが明るみになれば、手に入れた伯爵位は剥奪されるだろうね」
「ち、違う! あれは心臓発作です!」
ウォンシャー公爵の視線が鋭くなると、メドレスはダラダラと汗をかいて身振り手振りを大きくしながら見苦しい弁解をした。