赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ア、アルファス様?」
「じゃあ、学舎の仕事がない日は城に泊まれ! な、いいだろう?」
ニコニコしながらこちらを見上げてくるアルファスを抱きしめ返し、曖昧な笑みを返す。
泊まるとなると、気がかりなのは薔薇園だ。薔薇は繊細なので温度管理や病気にかかってはいないかなど、マメな観察や手入れが必要になる。
「心配事があるなら、遠慮なく言うといい」
シェリーの不安を感じ取ってか、スヴェンが声をかけてくれる。迷惑でないだろうかと悩んだ末に、おずおずと薔薇園のことを相談したら城の庭師を手配しようと言ってくれた。
「すみません、お手数をおかけします」
「こちらが無理を言ったのだ。シェリーが気にすることはない。俺はアルファス様の側近も務めているからな、うちの王がなにかやらかしたら俺に相談しろ」
軍事指揮をとりながら、側近まで努めているスヴェンに驚く。忙しい身なのに長らく引き止めては悪いと思ったシェリーは、「おふたりとも、そろそろ」と声をかけた。
窓の外に広がる空は、青が深みを帯びて夜の訪れを知らせている。
「長居してすまないな。アルファス様、お暇しますよ」
「えぇー、まだいいじゃないか」
席を立つスヴェンに、アルファスはごねる。そんな彼にシェリーは語尾を強めて「アルファス様」と厳しい声を放った。
腰に手を当ててズイッと顔を近づけると、アルファスは身を仰け反らせる。
「わかったよ、じゃあいつ会えるんだ?」
唇を尖らせながらも納得してくれた彼に、よくできましたと微笑んだ。
「明日は授業がありますので、明後日からお引き受けしたいと思っています」
「むっ、承知した」
渋々だがコクリと首を縦に振るアルファス。それを見たスヴェンが腕組みをしながら、「ほう」っと再び驚きの声をあげる。
「たった数時間で、ここまでアルファス様の信頼を勝ち取るとはな。俺の目に狂いはなかったということか」
「スヴェン様?」
「シェリーとは、長い付き合いになりそうだ」
彼の言っている意味がわからなかったシェリーは首を傾げる。
しかしそれ以上はなにも語ってくれず、意味深な発言だけを残してスヴェンはアルファスとともにローズ家の邸を出ていってしまうのだった。