赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ヨエルはあなたとルゴーンが手を組んで、前国王の毒殺に関与した会話も聞いている。そして今回の前王妃の毒殺未遂の件に関しても、手口が似ているとは思いませんか」
今度はシェリーにスヴェンの視線が向けられた。その意図を察したシェリーは、ひとつうなづいて一歩前に出る。
「大公殿下は城の庭に咲いている薔薇を証拠に、アルファス様が前王妃様を手にかけようとしたとおっしゃいましたが……。そもそも犯行に使われた薔薇は、庭園のものではありません」
鞄から城を脱出する前にウォンシャー公爵に渡された薔薇を取り出し、さきほど摘んだ庭園の薔薇と合わせて見せる。
「城の庭園に咲いているのはオンディーナ。少数の丸い花弁に青みの弱い藤色をしているのが特徴です。でも犯行に使われた薔薇は花弁も多く先が尖っていて青みも強い……間違いなく別の品種、ターンブルーです」
ノーデンロックス公爵は「では、その薔薇はどこから入手したのだ」と追及され、シェリーはアルファスの背中を軽く押す。
「僕は大公から貰った。母様が喜ぶだろうからと、そそのかされてな」
アルファスに鋭い視線を向けられた大公は変わらず不気味な笑みを口元にたたえており、不気味だった。
その態度に苛立って身を震わせるアルファスを落ち着けるため、シェリーはその手を握った。
「気を静めて、あなたの知恵で戦うのです」
「シェリー……そうだな、知識と教養はシェリーがくれた力だったな」
眉尻を下げて笑うアルファスに、強くうなづいてみせる。そうすると、凛とした表情でアルファスは大公を真っ向から見つめた。
「大公、お前は黒だ」
「アルファス様、どれだけ足掻いても無駄ですよ。ここに用意された証拠が真実だと、誰が信じるのか。私は大公、そしてあなたは幼く年端もいかない国王。果たして皆は、どちらの言葉を信じるのでしょうね」
これだけ証拠を突き出しても、大公は自身の権力や名声の強さを信じている。
たとえ四公爵に認められなくともそれ以外の人間――民や貴族など、権力者の信用を勝ち取れば大公の座に居座れると思っているのだ。
「ならば、弁解の余地すらあなたに与えなければいい」
スヴェンはそう言って、アルファスになにかを耳打ちする。それにアルファスは「その手があったか」と不敵に笑い大公に向かって歩き出した。