赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「今ここで大公の称号を剥奪するか、否かについて議会を行いたい!」

「なにをするおつもりですか? あなたに議会を仕切る権限など……」


 訝しむように片眉を吊り上げる大公に、スヴェンはニヤリと口角を吊り上げる。


「大公殿下ともあろう方が存じておられないのですか。国王陛下と四公爵が認めれば、大公殿下の許可がなくとも議会は執り行える」


 スヴェンの言う通り国政は大公と四公爵の議会によって行われているが、なんらかの理由で正常な議会を開けないと判断された場合には、国王による議会の開催が認められている。

これは大公及び四公爵が国を揺るがす不祥事を起こしたときのために、設けられた国王の特例議会の権限だった。
 大公は「悪知恵を働かせおって」と忌々しげに呟く。


「ならば私から、称号は剥奪するべきでしょうな」


 手を挙げたウォンシャー公爵に賛同するように、ガイルモント公爵も挙手をする。


「私も剥奪すべきと考えます。それから直接手を下していないとはいえ、民を巻き込み国王の毒殺の片棒を担がせた罪は重い。その処分に関してはどうしましょうか」

「大公殿下は王族、本来であれ斬首に値するでしょうな」


 ノーデンロックス公爵のひと言に、大公は「この私を殺すのか」と笑う。

死を恐れていないのか、悠然と構えている大公にスヴェンの顔は嫌悪の形相を帯びた。


「この男は死を前にしても反省などしない。愛しているといいながら自らの欲望のためにアフィルカ様を傷つけ、息子であるアルファス様や前国王にまで手をかけた。その考えは恐ろしく利己的であり、死という逃げ道を与えるのは間違っている」


 戦友を理不尽に殺された怒りが、スヴェンの鋭い語気から伝わってくる。それを聞いているだけでシェリーの胸は締めつけられ、彼の代わりに泣いてしまいそうになった。

 父を奪われただけでなく、母まで傷つけられたアルファスは「僕も同感だ」とはっきり意見を述べる。


「お前は死ぬのではなく、生きて永劫罪を償うべきだ」

「ではアルファス様、禁固刑という形をとってはどうでしょうか。この城の意地下牢であれば守りも固く、簡単に脱獄はできますまい」 


 アルファスはガイルモント公爵の提案に強くうなづき、「叔父様……いや、トルメキア・サザーリンスター」と家族との一線を完全に断ち切るように名を呼んだ。


 あれほど余裕な笑みを浮かべていた大公は動揺するように瞳を揺らし、ビクリと肩を震わせる。

そして、「なぜ、殺さないのだ……殺せ!」と怯えるようにアルファスに問うた。


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