赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う



「僕はお前が許せない。だから簡単にあの世になど逃がしてたまるか、生きて罪と向き合うんだな」

「うあああああっ」


 死ねないことがわかり発狂する大公は、だれの目から見ても狂っていた。

そして、懐に手を入れると銃を取り出す。公爵たちが慌てて距離をとると、ニタニタ笑いながら銃口をアルファスに向けた。


「アフィルカは私のほうが先に愛していたというのに、ギュンターが横からかっさらったのだ。許せなかった……王位も愛する女も手に入れ、子宝にも恵まれたあの男が」


 大公が話している好きにアルファスに駆け寄ろうとしたシェリーだったが、「動けば撃つぞ」と引き金に手をかけられてしまい身動きが取れない。


「シェリー、下手に動くな」

「ですが、スヴェン様」

「アルファス様は俺が守る」


 そう言っていつでも抜けるように、剣柄に右手を乗せる。しかし銃相手ではあきらかに、距離を詰めなければならないスヴェンの剣ほうが不利だ。

無茶をしないでと言いたいのに、それを彼が望んでいないことはわかっているから言えなかった。


「だから裏切り者のアフィルカが愛する者をすべて失えば、この私を求めてくれると思った。だからギュンターを殺し、アルファス様を罪人に仕立て上げたのだが……どうやら心配のようだ」


 世間話でもするように軽々しく語られたのは、己の罪を認めるような発言だった。

弁解もしない大公がなにをしでかすつもりなのかと、皆が気を抜けないでいると。



「だが私は、死してアフィルカと幸せになる」


 恍惚とした表情で天井を見上げ、皆がその視線を辿るように顔を上げた瞬間、大公は銃口を自身の頭に向ける。


「死なせてたまるか!」


 瞬時に異変に気づいたスヴェンは、腰の剣を大光の腕目がけて投げつけた。すぐさまウォンシャー公爵が駆け出し、倒れこむ大公を取り押さえる。

しかし痛みに「ぐぬうっ」と呻いている大公は腕から血を流しながらもまだ笑っており、ウォンシャー公爵はハッとして「スヴェン、後ろだ!」と叫んだ。


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