赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「シェリー!」
振り返ったスヴェンになぜ名前を呼ばれたのかがわからず後ろを向くと、地下牢にいるはずのルゴーンが鈍く光る銃の照準をこちらに合わせているのが見えた。
「えっ」
音になっているのかいないのか、自分でもわからないほどかすれた声が出る。
頭が真っ白になり、呆然と立ち尽くす。引き金が引かれるまでの時間が、やけにゆっくりに感じた。
「お前たちも愛する者を失えばいい」
そんな大公の声が耳に届いたとたん、パァァンッと銃声が鳴る。瞬きをする間もなく、目の前にある大きな背中を見て、シェリーは言葉を失っていた。
それはゆっくりと後ろに倒れこみ、シェリーの足元に転がる。
「どうして……」
膝から崩れ落ちるようにして、それに縋りつく。自分を庇った彼はピクリとも動かず、ガーネットの美しい瞳も、つい数秒前に名前を呼んでくれた唇も閉ざしてしまっていた。
他の公爵がルゴーンを取り押さえているのと、側でアルファスが立ち尽くしているのが見えたが、シェリーはスヴェンのことしか考えられずにいた。
「そんな……スヴェン様、起きてっ」
目の前の体を揺すっても返事はない。
絶望的な気持ちで、それでもスヴェンの名を呼んでいると、目に涙が込み上げてきて彼の頬を濡らす。
「約束、したではありませんかっ、私と一緒に生きてくれるのでしょう?」
何度も何度もその体を揺すりながら、頬に伝う涙もそのままに声をかけ続ける。
けれど返事はなく、その胸に額をこすりつけるようにして泣き出した。
「私を置いていかないでっ、スヴェン様ぁっ」
誰かに置いて行かれる痛みをまた味わうことになるだなんて、思ってもみなかったのだ。
愛した人を失うというのは、こんなにも苦しいものなのかとシェリーが泣き叫んでいると、ふいに頭に手が置かれた。
「え……」
顔を上げれば、困ったように笑うスヴェンと目が合う。
「悪い、心配をかけたな。気を失っていた」
「スヴェン様、どうして……」
「お前が貸してくれたお守りのおかげのようだ」
少し体を起こしたスヴェンは、胸元からなにかを引っ張り出す。それは前にシェリーが預けた父の形見、ローズ家の紋章が刻まれた薔薇の首飾りだった。