赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


 式を挙げてから半年後、シェリーはセントファイフ家の邸に移り住んだ。

ローズ邸の方は学舎として今も活用しており、授業がない日も庭園の薔薇の手入れはシェリーが馬車で通い行っている。


 公爵家に入ったシェリーは本来ならば仕事を辞めるべきなのだろうが、今もカヴァネスを続けている。

というのも、身分の高い女性が働くことはみっともない恥さらしであるからだ。最初はセントファイフ家の先代当主、スヴェンの父から今すぐ辞めるようにと厳しいお咎めを受けた。

もちろん愛する人と離れるという選択肢はなかったので引退も考えたのだが、スヴェンが国王を育てたシェリーの力を必要としている人間は大勢いるのだと説得してくれたのだ。

 今は旦那様であるスヴェンを支えながら、城と学舎を行き来して働いている。


「シェリー、遅くなってすまない」

「お帰りなさい、スヴェン様」


 今までスヴェンは城に寝泊まりしていたのだが、あのアルファスに「僕のお守りは必要ない、妻の側にいてやれ」と言われてしまったらしい。

スヴェンは信のおける騎士をアルファスの護衛に置き、夜はこのセントファイフ邸に帰ってくることになった。


「やはり、シェリーの顔を見ると癒されるな」


 スヴェンは扉の前で帰りを待っていたシェリーを後ろから抱え込む。背中に感じる彼の体温に幸せを感じながら、シェリーはホッと息をついた。


「それはうれしいですね」


 思わず顔を綻ばせていたら、スヴェンは不思議そうに「うれしい?」と聞き返してくる。

シェリーは顔だけで彼を振り返り、にっこりと微笑んだ。


「はい、愛する夫を癒すのも妻の大事な務めですから」

「お前は……俺を喜ばせて、どうするつもりだ」


 後ろから顎を掴まれて上向くと、啄むように口づけられる。唇が離れると、お腹に回る彼の腕に手を添えた。


「愛しています」

「シェリーに先を越されたな。俺も愛している」


 スヴェンが肩に顎を乗せて、深く長い息を吐いた。

どこか疲弊を感じているように思えて「お疲れのようですね」と労わるように彼の手の甲をさする。


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