赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「それはすまなかった。女性には求められることが多くてな。シェリーのように迷惑がられたのは初めてで、なかなか新鮮だ」
「あぁ、そうですか」
声に抑揚がなくなり、自分でも呆れを隠せていないことはわかっていた。
ここまで女性に好かれていることを公言されると、かえって清々しく腹も立たない。
「行きましょう」
シェリーはボストンバックを手に、彼を置いて馬車に近づいた。そんなシェリーの背中を見つめながら、スヴェンは「ますます面白い」と呟き後を追う。
「ミス・シェリー、バックをこちらへ。それから、お手をどうぞ」
「お気遣い、感謝いたします」
事務的なお礼をして、差し出された手を取ると馬車に乗り込む。目の前の座席にスヴェンが腰を下ろすと、馬車は王城に向けて走り出した。
太陽が一日のうちで最も高く空に昇る頃、シェリーはアルオスフィアの王城に到着した。
見上げれば首が痛くなりそうなほど高い、塔や館がいくつかそびえ立っている。
その周りは背丈を悠々と超える城壁やの門によって守られており、見事な防衛が施されていた。
城内の庭園には妖精が現れそうなほど咲き乱れる色とりどりの花。館の中に足を踏み入れれば、黄金の手すりがついた螺旋の大階段に出迎えられる。
白を基調とした壁を飾るフランドルの花模様、天地創造を題材にしたタペストリーたちに心癒されながら、まっすぐにどこかへ続く長い廊下を歩いた。
そして、王家の紋章のレリーフが刻まれた純白の大扉でスヴェンは足を止める。控えていた騎士に目を向けると、厳かに扉が開けられた。
スヴェンの背に続いて足を踏み入れたそこは、シャンデリアに照らされた謁見の間。床や壁までもが白の大理石に囲まれ、少しひんやりとした。
天井を見上げれば、煌びやかな金のモザイク模様が描かれており、落ち着きの中にも気品を感じる。
王座に続く赤い絨毯の上を歩いているとこちらを品定めするような騎士と大臣たちの視線を一身に浴びて、足がすくみそうになる。
それでも歩き続けられたのは、スヴェンの頼もしい背中が目の前にあるからだろう。