赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ス、スヴエン様?」
目を見張ると、スヴェンはお腹を抱えながらこちらを振り返る。
「シェリー、頼もしすぎるぞ。さすがの俺も面食らった」
「それは……申し訳ございません」
「怒っているのではない。褒めている」
スヴェンの手が伸びてきて、子供にするように前髪をくしゃりと撫でられた。シェリーは頬を真っ赤に染めて、唇を震わせる。
「なにをなさるのですか!」
これでは、まるで子供扱いだ。確かにスヴェンより年下ではあるけれど、たった三つ違いなのにあんまりだとシェリーは目くじらを立てる。
すぐに後ずさって、前髪を手櫛で整えた。
「すまない、可愛くてついな」
かくいう彼は、人の気も知らないでカラカラと笑っている。ため息をつきそうになっていると、アルファスが腕に抱き着いてきた。
「これから城を案内してやるよ!」
なぜか上機嫌な様子のアルファスは国王とはいえ、まだ十歳。年相応の反応が可愛らしくて、つい笑みがこぼれる。
「お願いします」
「仕方ないから、引き受けてやるよ」
「アルファス様、今の受け答えはやり直しです」
「ええっ、なんでだよ!」
アルファスは主に国王に求められる心の寛大さ、立ち振る舞いという勉強よりも教えるのが難しい部分が欠けている。
おそらく彼ひとりを相手にするより、学舎で授業をしているほうがずっと楽なのだが、引き受けたからには頑張らねばと気を引き締めた。
こうして、シェリーの波乱の一日が幕を開けたのだった。