赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「アルファス様を味方につけるなんて、卑怯です」
頬を膨らませて抗議すると「苛めすぎたようだ」と子供にするみたいに頭を撫でてくる。
(スヴェン様って、少し苦手かもしれない……)
彼からかけられる言葉や仕草、表情のひとつひとつに心臓が騒いで慌てふためいたりと落ち着かなくなる。
どちらかというと自分は冷静な性格だと思っていたので、翻弄されるのに慣れていないのだ。
「さて、そろそろ俺は訓練場に戻る」
立ち上がったスヴェンの軍服の裾をとっさにアルファスが引っ張る。
「僕にも剣術の稽古をつけてくれ!」
必死な表情で頼み込むアルファスに、スヴェンの目が見開かれていく。
「めずらしいですね、アルファス様が自分から稽古だなんて」
「うるさい! 僕もシェリーにいいところを見せるんだ!」
それを聞いたスヴェンは「ほう」とつぶやくと意味深な眼差しをこちらに投げて、片側の口角を上げる。
「やはり、シェリーは男を転がすのがうまい」
「その誤解を招く言い方は、やめてください!」
「ははっ、では訓練場に参りましょう」
先に踵を返すスヴェンの背に「もうっ」と不満をこぼしながら後を追って、庭園の出口へ歩き出す。
居舘に入る前、なんとなく後ろ髪を引かれて一度だけ足を止めると咲き乱れる青薔薇を振り返る。
思い出すのは、家の小さな庭園に残してきた薔薇たちのこと。薔薇は色と本数と組み合わせによって持つ意味が変わる。
あの庭園では生前から母のこだわりで、赤い薔薇が九百九十九本になるよう手入れされていた。赤は愛情、そして本数が意味するのは――。