赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「シェリー?」
スヴェンに声をかけられ、慌てて前を向くと曖昧に笑う。
彼は一瞬、なにか言いたげな顔をしたのだが、結局なにも聞かずに「行こう」と声をかけてくれた。
それに促され、切ない過去の記憶にそっと蓋をして歩き出す。それでも頭から消えない九百九十九本の薔薇の持つ意味、それは……。
――何度生まれ変わっても、あなたを愛する。
訓練場にやってきたシェリーは、ベンチに腰かけながら遠目にふたりの稽古の様子を眺めていた。
アルオスフィア国の歴史学がまだ途中だったのだが、剣術も彼にとっては必要な技能であるし、なにより体を動かしたほうが頭もスッキリするだろう。
剣同士がぶつかる金属音を聞きながら、ぼんやり彼らの動きを目で追っていると隣に誰かが腰かける気配がした。
「え?」
横を向くと三十代くらいだろうか、ブラウンの髪と瞳をした男性が素知らぬ顔で座っているではないか。
金糸で縁取られたベルベット製の青のジェストコールに、エメラルドのブローチがついた襟元のスカーフ。ぴったりとした黒いズボンとブーツを履いており、服装からして高貴な身分であることは明白であった。
「騎士は生まれついての身分、階級は出世にまったく関係ない。つまりはその代の当主に剣の腕がなければ、簡単に公爵位を剥奪されてしまうということだ。すごいよね?」
ね?と同意を求められても、とシェリーは眉を顰める。
なんでそんな話をし始めたのかはわからないが、向けられた屈託のない笑顔に押されて口を挟まず最後まで聞くことにした。