赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「セントファイフ家はスヴェンの代で公爵位を賜ったんだ。その前はルゴーン家だった」


 その話には聞き覚えがあった。というより長年、偉大な騎士を輩出してきたルゴーン家の失脚は民の間にも衝撃をもたらした。それほど由緒ある公爵家だったのだ。


 民の間ではスヴェンの力量が当時のルゴーン家当主より上だったため、騎士公爵の座はセントファイフ家に移ったのだと聞かされている。


「いいかい? これは俺の見立てだが、王は病死じゃない。毒殺されたんだ。その首謀者がルゴーン家でスヴェンが討ったから、彼は今の地位にいる」


「なっ……毒殺? そんな、信じられません。第一、そのようなことを私のような庶民に話してもよいのですか?」


 信じられない事実を突然知らされ、顔を真っ青にしながら震える声で尋ねた。

 そんなシェリーの動揺に気づいているのか、いないのか。目の前の彼は、笑みを崩さないまま口を開く。


「さっき、謁見の間に俺もいたんだけど……。君なら、陛下の教育係も長く続くだろう。だから、ふたりの側にいる以上は忠告しておいたほうがいいと思って」


 善意のつもりだよ、とでも言うように彼は肩に手を置いてくる。嫌な感じはしないのだが、掴みどころがなくて接し方に戸惑っていた。


「シェリー」


 そこへ稽古を中断してきたのか、スヴェンが駆け寄ってくる。隣に座る彼をチラリと見やると盛大にため息をついた。


「ウォンシャー公爵、ここでなにをしているんです?」


 シェリーの肩に乗る手をやんわりと払い、スヴェンは男をウォンシャー公爵と呼んだ。

その名を耳にしたシェリーは、あまりの驚きに世界がぐらつくような錯覚を覚える。


(ウォンシャー公爵って……。庶民出身でありながら、公爵位を賜った方じゃない!)


 いくつも事業を展開させ、商家として成功したガイ・ウォンシャー公爵と話していたなんて恐れ多い。

今更たが、失礼がなかっただろうかと自分の言動を振り返って冷や汗をかいてしまう。


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