赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「いいや、新しい陛下の教育係にご挨拶をと思ってね。それよりスヴェン、俺のことはガイでいいって言ったじゃないか。敬語も堅苦しいだろう?」
「あいにく、議会の人間に対しては一定の距離を置かせてもらっているので、その要望は聞きかねますね」
ふたりは友人ではないのだろうか。少なくともウォンシャー公爵のほうはそう思っているように見えたので、警戒しているスヴェンを見て首を傾げる。
「大丈夫、俺は黒じゃない」
なにかを察したふうにウォンシャー公爵はヘラッと笑うが、スヴェンはなにも答えなかった。
ふたりの間にだけ通じるなにかが、あるようだった。
張り詰めた空気の中、息をのむシェリーを救ったのは小さな救世主だ。
「おーい、なにやってるんだよ!」
アルファスが剣を手に遠くからこちらに向かって叫んでおり、その顔は不満げに歪んでいる。
おそらく、稽古をほっぽり出したスヴェンに対して怒っているのだろう。
ウォンシャー公爵がやれやれと首を横に振り、アルファスに向かって叫ぶ。
「私が引き留めてしまったのです、国王陛下。すぐにお暇しますから!」
遠くから陛下に向かって叫ぶなんて失礼極まりないが、彼の人懐っこい雰囲気のせいなのか注意する気も失せる。
対するアルファスは「早くしろよ!」と文句を言っていた。
ウォンシャー公爵はクルリとこちらに体を向け、謎を秘めたブラウンの瞳を細める。
「じゃあ、くれぐれも身辺には気をつけて」
最後に言った言葉は、紛れもなくシェリーに向けられていた。胸をざわつかせながら、訓練場を立ち去っていくウォンシャー公爵の背中を見送っているとスヴェンに声をかけられる。
「シェリー、ウォンシャー公爵に何を言われたんだ」
「それは……」
前王が毒殺されただなんて言葉にするのも恐ろしいが、真実を知りたい気持ちもあった。
話すべきか迷ったのだが、ウォンシャー公爵の最後の言葉も気になったシェリーは言われたことをすべて伝えることにする。
話し終えると、スヴェンはあからさまに苦い顔をした。
「そんなことを話せば、余計に危険が増すというのに……わからないやつだな」
スヴェンの言葉は、話したことが真実だったと肯定しているようなものだった。
真っ先に心配したのは、幼い陛下のことだ。国王といえど、十歳の少年に受け止められるような事実ではない。
シェリーは躊躇いがちに、彼に尋ねる。