赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
大きなシャンデリアがいくつも輝き、金箔の浮彫が部屋全体を黄金に染めるこの広間は実際に明日も使う前夜祭の会場だ。
今日のアルファスとの授業はダンスレッスン。先ほど前夜祭があると聞いて、急遽予定していた歴史学から変更したのだ。
先ほどアルファスの執事に確認したところ、本来であれば前夜祭の翌日に即位式が行われるのだが、教育係が立て続けに退任したことでアルファスは式典の作法を習っていない。
そのため、式典が滞りなく進められるほどの作法を身に着けてから式を執り行うよう大公から通達があったのだとか。
ならば前夜祭も遅らせるべきなのだが、即位式もせずにアルファスを国王に即位させたことや一年もの間、式を延期してきたことに貴族たちから不信感がわいているらしい。
関係の修復を図る目的のもと、前夜祭のみを行う。つまりはご機嫌取りをしたいという、もくろみがあるのだろう。
「なぁシェリー、朝食のときから思ってたんだけどさ、城が騒がしくないか?」
「アルファス様、やり直し!」
ワルツを踊りながら、茶会の延長線上のような会話をしてくるアルファスの頭に軽く手刀を落とす。
「痛っ! なにするんだよ、シェリー」
「ダンスは男性としての器量を見られる、いわば戦場なのですよ。ダンス中によそ見だなんで言語道断です」
前夜祭で開かれる舞踏会では四人の男女カップルが四角になって踊るカドリールや男女の円舞曲であるワルツ、他にも民謡舞踏から生まれたアップテンポのポルカなどが踊られる。
これらの曲名とダンスの順番は招待状にあらかじめ書かれ、配布される。
すなわち、そこに書かれたダンスは一通り踊れなければ恥をかくということだ。
「ダンスと戦いは違うだろ」
頭をさすりながら、半信半疑な顔をしているアルファスにズイッと顔を近づけて、脅かすように淡々と告げる。