赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「いいえ、同じです。どの場面においてもマナーがなっていない方は一人前の国王以前に、男性としての器量がないと軽視されてしまいます」


「ぐっ……わかったよ、ちゃんとやる」

「それでよろしい。では、もう一度リードする姿勢からチェックしますね」


 面倒そうではあるが、手を取ってくれるアルファスとともにワルツを再開する。

 彼はシェリーが教育係に就く前からダンスレッスンを受けていたらしく、ある程度は踊れているが仕草に品が足りない。

女性をリードするには心構えが必要なので、もう少し時間をかけて教えたかったのだが、前夜祭が明日に控えているのでシェリーは技術を優先的に指導することにした。


 しばらくして、踊っているシェリーとアルファスに「今日はダンスレッスンか」と聞き覚えのある声がかかる。

 同時に動きを止めて広間の入り口を見れば、戸口に寄りかかるスヴェンの姿があった。


「アルファス様、ミス・シェリーのエスコートは順調ですか?」 


 そんな軽口をたたきながら歩み寄ってくる彼の顔には、議会の後だからか疲労が滲んでいるように見えた。


「スヴェン、今日はどこ行ってたんだよ。朝食にも顔を出さないで」


 不満げなアルファスに、彼はわざとらしく挑戦的な笑みを口元にたたえて言った。


「綺麗な令嬢を口説いていたら、時間を忘れてしまったんですよ。アルファス様も大人になったらわかります」


 あきらかに、今朝の薔薇事件の話題を避けている。前夜祭の前に、よけいな心配をかけたくないのだろう。

そんな彼の意図を察していないアルファスは「子ども扱いするなよ!」と怒り出す。 

 それでもスヴェンは目を細めて、弟にするみたいに彼の頭を撫でながら報告する。


「これから仕事で外に出るので、お側を少しだけ離れます」

「え、外に!?」

「遊びに行くのでは、ないのですよ」


 声を弾ませたアルファスを彼は諭す。
 仕事で外にと言うが、今朝のこととなにか関係があるのだろうか。

 不安を胸に抱きながら、スヴェンの横顔を見つめる。すると、シェリーの視線に気づいたスヴェンとばっちり目が合ってしまった。

 彼は口パクで「心配するな、調査だ」と教えてくれたのだが、当のアルファスはついて行く気満々だ。


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