赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「わかったよ、スヴェン」
普段は突っかかってばかりの彼も素直にうなずいており、シェリーたちは町の巡回という名目で調査に赴くこととなった。
「町が賑やかですね。アルファス様の即位式を心待ちにしているのでしょう」
シェリーは近々ある即位式に向けて、お祝いムードが漂う町を笑顔で見渡す。
その前に前夜祭があったのには驚いたが、人前に出ることに慣れるためにもアルファスにはいい練習になるかもしれない。
そんなことを考えながら、シェリーとスヴェンの間を歩くアルファスを見下ろす。
「国王なんて、誰でもいいくせに」
どこか投げやりな言い方をした彼の顔は、町の賑やかさとは正反対に曇っていた。
「そのようなことを言うものではありませんよ」
スヴェンは眉間にしわを寄せて、アルファスを軽く咎める。
王として気高く在れ、民の希望であれ、国にその身を捧げ尽くせ。この小さな肩に庶民には理解できないほど、たくさんの期待と重圧が乗っている。
それは誇らしいことである反面、彼を苦しめる重荷でもあるのだろう。
必要とされているのがアルファスという人間ではなく、国王という肩書なのではないかと自暴自棄になってしまうのかもしれない。
「アルファス様、そのような顔をしないで。せっかく町に来たのですから、もっと笑顔を見せてほしいです」
その小さな手を握れば、アルファスはゆるゆると顔を上げた。
目の前にいる彼は国王というより、泣き出しそうな迷子のようにシェリーの目に映る。
この二日間で教育係という立場上、どうしても国王とはなんたるかをしつこいくらいに説いてきた。
しかし、それが彼のやる気を削いでしまったら意味がない。改めて、カヴァネスとして自分にできること、個に合わせた教育という難しさを考えさせられていた。
なんにせよ、今の彼に必要なのは息抜きなのかもしれない。そう気づいたシェリーは、彼の手を引いて広場でやっている大道芸を見に行く。