赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「シェリー、人が多い場所は危険だ」

「すみません、スヴェン様。ですが、少しだけ時間をください」


 彼の心配はごもっともなのだが、アルファスにはこの機会に民の生活を身近に感じてほしいと思っている。
自分が守るものがどれだけ尊いものなのか、気づいてほしかったのだ。


 広場ではエスタンピーの器楽演奏に合わせて、ジャグリングや手品を披露しているジョングルールがいる。

 彼らが見せる大道芸のひとつひとつに、アルファスは「おおっ」と感激の声を漏らしながら見つめていた。


「まるで母のようだな」


 それを温かい気持ちで見守っていると、スヴェンが小声で話しかけてくる。恐れ多いけれど、彼の言うことは当たっていたので肩をすくめた。


「それに近い気持ちで、私はアルファス様を見ているかもしれません」


 アルファスに限らず、それは教え子全員に言えることだ。結婚も出産も経験はないが、自分なりに愛し、厳しく接してきたつもりでいる。


「そうか、だからお前は優しい面立ちをしているのだな」

「ほめ上手ですね、スヴェン様は」


 口を開けば女性を喜ばせるような言葉ばかり。誰にでも言っているのだろうと思うと、胸が締め付けられるみたいに苦しくなった。

 それを悟られまいと笑みを張り付けていると、スヴェンは苦笑する。


「また、からかっていると思っているな?」

「ふふっ、違うのですか?」

「血の繋がらない子供にも真心を注げるお前に、俺は本気で胸打たれたというのに」


 まただ。スヴェンに褒められると鼓動は加速するし、体温も上がる。余裕なんてたちまち崩れて、おかしくなりそうになる。

この感覚に溺れてしまいたいような、恐ろしいような、相反する気持ちに胸が切なくてしかたないのだ。


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