赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「シェリーの生徒になった子供たちは幸せだな」

「大袈裟です、スヴェン様」


 いい加減に恥ずかしくなって、シェリー顔を赤らめてしまう。
 けれど、スヴェンは追い打ちをかけるように頬を手の甲で撫でてきた。


「スヴェン様っ」

「お前の肌は絹のように滑らかだな。唇も熟した果実のように旨そうだ」


 彼の手が熱を持った頬を撫で、唇の感触を確かめるように何度も指先で押されてくる。

 アルファスは目の前の大道芸に夢中で、見つめ合うシェリーたちに気づいていない。


 とはいえ、こんなところを見られたらと気が気じゃなかった。
 それでも振り払えなかったのは、彼に触れてほしいと心の奥底で願っていたからかもしれない。


 などと、物思いに耽っているときだった。
 突然、広間に悲鳴が響き渡り、人がザーッと散っていく。


その中で道化師の面をつけたジョングルールのひとりが平然と立ち尽くしているのに気づいた。

その手には剣舞に使うロングソードが握られており、皆が彼から逃げているのだとわかる。


「ふたりとも、下がっていろ」


 剣柄に手をかけて、鋭い視線を道化師の男に向けるスヴェン。シェリーはアルファスを抱きしめ、震える声で「はい」と答えるとその背に隠れた。


「その剣をしまえ。さもなくば、身柄を拘束する」


 張りつめる空気の中、スヴェンは凛とした姿勢を崩さない。
 腕の中で震えるアルファスを強く抱きしめながら、シェリーは緊張の面持ちで成り行きを見守る。


「我々は必ずや成し遂げる。ギュンターフォード二世、その王座を必ずや散らせよう。アルオスフィアの平和は、これで終わりを告げるだろう」


 ナイフを掲げ、男はケタケタと笑い出す。それがあまりにも気味悪く、背中にブルリと悪寒が走った。


 スヴェンが剣を抜きかけたとき、男は颯爽と身を翻してその場から逃走しようとする。

後を追おうとしたスヴェンだったが、シェリーたちを振り返ると置いていけないと判断したのか、こちらに戻ってきた。


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