赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「城に戻るぞ」
「はい……スヴェン様」
気丈に振る舞おうとするも、あきらかに顔色の悪いシェリーを見たスヴェンは、その華奢な肩を優しく引き寄せる。
そして、もう片方の手は「怖い思いをさせましたね」とアルファスの頭に乗せた。
(そうよ、怖いのはアルファス様のほうだわ。見知らぬ男に名指しで王座を散らすだなんて言われたんだもの)
しっかりしなければと自分に活を入れて、腕の中で震えるアルファスの頬を両手で包み込む。
下がった眉尻に、涙をいっぱいに溜めた目。彼の不安が胸に直接流れ込んでくるようで、たまらず抱きしめた。
「ご無事でよかった……怖かったでしょう」
「ううっ、うわぁぁーんっ」
堰を切ったように泣き声を上げるアルファスを、さらに強く抱きしめる。
心を込めて彼に関わっているからこそ、どうして彼が王にならなくてはならないのか、危険な目に合わなければならないのか、勝手だとわかっていても考えてしまう。
けれど、どんなに思考を巡らせようと、ただのカヴァネスである自分にはなにもしてあげられない。
それがあまりにも不憫で悔しくて、シェリーの頬にも涙が一筋伝った。
そんなシェリーをじっと見つめて、スヴェンは目を見張る。
「お前は自分のことでは泣かないのに、誰かのために涙を流すのだな」
「え……?」
「前に城の庭園に咲いていた青薔薇を見つめていたとき、お前は泣きそうな顔をしていた。だが、曖昧に笑ってごまかしただろう」
それは、アルファスを気分転換に散歩へ誘ったときのことだろう。
思い当たる節があったシェリーは、強がりが見透かされていた気まずさよりも彼が気づいていたことのほうに驚く。
「お前がますます気になって、仕方がない」
「なにをおしゃって……」
「さぁ、ふたりとも帰るぞ」
口にしかけた問いは、彼の言葉によって封じられた。
続きを聞きたい気持ちもあったが、今はアルファスの安全をなによりも優先しなければならないので、開きかけた口を無理やりつぐむ。
調査どころではなくなってしまったシェリーたちは、町に来て数時間と経たずに馬車で城に帰還することとなってしまった。