赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
城に戻ってからはとてもじゃないが、レッスンなど再開できなかった。
シェリーは規則正しい寝息を立てて眠るアルファスのベッドに腰かけながら、その顔にかかる髪を払ってあげる。
月が昇る今の今まで不安にさせないよう側にいて、ようやく寝かしつけることができたのだ。
「こんな時間まで側にいたのか」
ふいにかけられた声に顔を上げると、戸口に微笑を浮かべているスヴェンが寄りかかっていた。
「スヴェン様こそ、今までお仕事ですか?」
彼は城に戻ってから、広場でのことを議会で報告するなど対応に追われていた。
おそらく、今まで走り回っていたに違いない。労わりを込めて彼を見つめれば、それが伝わったのかフッとやわらかい笑みを浮かべて側にやってくる。
「あぁ、対応に追われていてな。不安だっただろう、一緒にいられなくてすまない」
「そんな……スヴェン様の気持ちは、アルファス様にも伝わっていると思います」
「アルファス様のこともそうだが、シェリーのこともひとりにしてしまっただろう?」
やはり子供をあやすような言い方ではあったが、自分を思っての言葉に胸が温かい気持ちになる。
剣の腕だけでなく、心も守ろうとしてくれる彼の優しさに心臓が高鳴った。
そこでようやく気づいた。目の前の身分も性格も大きく異なる彼に、男性として惹かれている自分がいるのだと。
「私のことなんて、気になさらなくていいのに……」
気づいてしまった自分の恋心にどぎまぎしてしまい、つい可愛げのないことを言ってしまった。
本心とは違うことが口をついてしまうシェリーに気づいてか、スヴェンはその髪に手を伸ばして花を愛でるかのように撫でつけながら答える。