赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「無理を言うな。考えないようにしようとしていても、執務中だろうが鍛錬中だろうが、お前の顔が頭をチラついて離れない」
「それはどうしてですか」
「俺に聞くのか、それを」
彼の熱を孕んだガーネットの瞳が月光に煌いて、シェリーの視線も捕らわれる。
見つめ合う時間が一秒を刻むたび、鼓動が加速していく。全身の神経の触覚が彼に向く。
やがて髪に触れていたスヴェンの手が、まるでダンスにでも誘うかのように優雅にシェリーの手をとった。
「少し、庭園を歩かないか」
「はい」
まだ離れたくなかったシェリーは、頬を赤く染めながら頷いてその手をやんわりと握り返したのだった。
浮彫の月が淡い光で照らす夜空の下、スヴェンと青薔薇の庭園を歩く。
繋がれた手の温もりに密かに胸を高鳴らせていると、ふと頬に視線を感じて彼を振り向いた。
「青薔薇に、なにか思い出があるのか?」
「あ……そんなに顔に出ているでしょうか?」
おどけるように笑うとスヴェンはなにも言わずに、ただ強く手を握り返してくれる。
その仕草に気遣いを感じられて、彼にまた惹かれてしまう自分をどう止めていいのかがわからなくなっていた。
「……私の家にある薔薇園のこと、覚えていますか?」
「あぁ、城の庭師に手入れさせている、あの庭園のことか」
「そうです。あれは、他界した母の忘れ形見のようなものなんです」
ひとりで思い出に浸るには切なすぎて、ずっと鍵をかけていた懐かしい記憶の宝箱。それをゆっくりと開け放ち、遠い昔に過ぎ去った幸せな時間を手繰り寄せるように言葉にしていく。
「母はあの庭園に、九九本の赤い薔薇を植えました。薔薇には本数や組み合わせ、色に意味があるんです」
「シェリーの母君は、どういう意味を薔薇に託したんだ」
「それ、は……っ」
スヴェンに言われてすぐに答えようとしたのだが、うれしい、悲しい、愛しい、切ないといった様々な感情が喉につかえて言葉を詰まらせる。
シェリーの様子がおかしいことに気づいたスヴェンは、静かに背中をさすってくれた。
気持ちが落ち着いてくると深呼吸をして、もう一度口を開く。