赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「何度生まれ変わっても、あなたを愛する……と」
自分でいった途端、目が熱くなってぶわっと涙があふれ出る。頬をポロポロと零れ落ちていくそれは、月光を浴びて銀色に輝いていた。
スヴェンは指先で涙を拭ってやると、そっとシェリーを抱き寄せる。
「申し訳ありません、子供みたいに泣いたりしてっ……迷惑、ですよね?」
そうは言いながら、縋りつくように彼の服を握りしめてしまう。すると背中に回っていたスヴェンの手が慰めるようにシェリーの頭を撫で始めた。
「迷惑だなんて思わん。大切な者を失えば、子供も大人も関係なしに涙を流すものだ」
「でも……もう三年も経っているというのに、私は弱いままです」
「時間では癒せぬものもある。俺も戦友を亡くしたことがあってな、一年経つが今だにあの人を夢に見る」
スヴェンは騎士だ。数多の戦場を駆ける彼は、庶民で守られる側の自分よりもずっと死と隣り合わせだったにちがいない。
「戦友って……騎士のお仲間ですか?」
彼の腕に手を添えて、躊躇いがちに踏み込んだ質問をする。その過去を聞いたとしても事実は変えられないけれど、悲しんでいる彼の気持ちを一緒に受けとめることはできる。
シェリーは彼の感じる痛みを理解したいと思っていた。
「いや……実はな、ギュンターフォード一世のことだ」
「えっ、前王様が戦友だったのですか?」
目を見開くシェリーの反応は、予想の範疇だったのだろう。スヴェンは苦笑いを返すと夜空を仰いだ。その憂いを帯びた視線の先には月がある。
アルオスフィアには死者の魂は月の楽園へと昇り、永遠に幸せに暮らせるという言い伝えがある。
だから彼は月を通して戦友の姿を見つめているのかもしれない、そう思った。