赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「共に戦場を乗り越えてきたからな。十五という歳の差も身分も気にならなくなっていた。気づけば戦友として、酒を酌み交わすほど気の知れた人だったのだ」
公の場でしか、そのお姿を拝見したことはないけれど、前王妃と並んで国民に手を振る前王の姿は気高くも朗らかで民の心にも幸せを運んでくれていた。
「スヴェン様も大切な方を亡くされていたのですね……」
「だから少しは、お前の気持ちもわかるつもりだ」
頭を搔き回すように撫でてくるスヴェンに、「髪が乱れるので、やめてください」と言ったのだが、面白がって手を止めてくれなかった。
髪が茨のように絡まった頃、彼はようやく手を止めてくれる。
「泣き止んだみたいだな」
「あ……もしかして、私を励ますために?」
きょとんとしているシェリーの髪をスヴェンは梳いて整えた。その優しい手つきにくすぐったい気持ちになり、か細い声で言う。
「ありがとう、ございます……」
大人になって頭を撫でられるのは、なんだか気恥ずかしい。悲しみが子供のように泣きじゃくったことへの羞恥心に塗り替えられていく。
「みっともないところをお見せしました」
「なにを言う。俺の前で思う存分泣いてくれたほうが安心だ」
意味がわからなくて「安心?」と聞き返せば、「こっちの話ですよ、ミス・シェリー」と彼の真意は笑顔の仮面に隠れてしまった。