赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
四章 Shall we dance?
翌朝、スヴェンの胸で泣いたときのことを思い出して、とてつもない羞恥心に駆られたシェリーはベッドに顔を埋めて身悶えていた。
「シェリー様、前王妃様がお呼びです」
するとそこへ、執事がやってきてそう言った。
呼ばれる理由に思い当たる節はなかったが、「すぐに参ります」と返事をして身支度を済ませると部屋の外で待っていた執事に連れられて前王妃の部屋へと向かう。
「失礼します」
そう声をかけて中に入れば、窓際に立っていたアリシア前王妃が白銀の長髪を揺らしてこちらを振り返る。
「いらっしゃいシェリーさん。どうぞ、こちらへいらして?」
左右に分けられた前髪から覗く、サファイアの瞳。その眼差しは柔らかくも聡明で、心まで見透かされてしまいそうだ。
緊張の面持ちでぎこちなく微笑みを返すと壁際に控える執事を横目に、アリシア前王妃のほうへ歩み寄る。
そのままバルコニーに出て、清潔感あるホワイトのガーデンテーブルまで案内された。
前王妃に合わせて椅子に腰を下ろすと、執事が絶妙なタイミングで朝食とティーセットを乗せたワゴンを押してくる。
「あなたと一緒に食べようと思って、用意させたの」
アリシア前王妃はカップに口をつけ、紅茶をひと口飲むとそう言った。
朝食と一緒にとる紅茶はブレックファストティーと言って、アッサム茶やセイロン茶のブレンドのために風味や香りが強くコクがある。
ミルクや砂糖と合うトーストや目玉焼き、ベイクドビーンズなどのフル・ブラックファストとともにとるのが一般的だ。
シェリーは鼻を抜けていく紅茶の香りに張りつめていた気が緩み、疑問を口にする。
「あの、お誘いはとても光栄なのですが、なぜ私をお呼びになったのでしょうか?」
なにかしてしまっただろうかと不安に思っているとアリシア前王妃はふわりと笑い、カップを受け皿に戻して答える。
「アルファスから聞きました。昨日、町にアルファスを連れていったようですね」
「あっ……勝手なことをして申し訳ありません。危険な目にも合わせてしまって……」
昨日の怯えるようなアルファスの姿を思い出して、胸が締めつけられるような気持になる。
町に出て気分転換をしてほしかったのに怖い思いをさせてしまって、彼を連れて行ったことを後悔していた。
落ち込むシェリーに前王妃は「違うの」と口を開く。