赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「責めてはいないのよ。むしろ感謝しているわ」
「え、感謝ですか?」
予想だにしない返答に目を丸くして、前王妃の顔をまじまじと見つめてしまう。
「ええ、あの子は確かに怖い思いをしたかもしれない。でもね、私には町で見た大道芸や民の生活の様子を楽しげ話してくれたわ」
「アルファス様が……」
彼がどんな表情で町のことを話していたのかを想像したら胸がポッと温かくなり、自然に口角も上がる。
「あなたは聞いていたとおり、優しい人ね」
うれしそうな顔をするシェリーを見て、アリシア前王妃は下級のカヴァネス相手にも寛大な言葉をかけてくれた。
「前王妃様、そんな恐れ多いです」
「謙遜しなくていいのよ。アルファスやスヴェンからも、あなたは分け隔てなく人を愛すことができる素敵な女性だって聞いているもの。だから、私もお会いしてみたくて」
アリシア前王妃は四十代とは思えないほど美しく、茶目っ気たっぷりに笑うところも女の自分ですら見惚れるほどに魅力的な女性だった。
そんな前王妃の口からスヴェンの名前が飛び出したことに、心臓が嫌な音を立てる。
前に抱き合っているところを見かけていることもあり、ふたりが特別な関係なのではないかと勘ぐってしまった。
このような高貴な方相手に黒い感情を抱くことすら罪深いというのに、どうしても嫉妬心が芽生えてしてしまう。
教育者として、人に誇れないような生き方はしたくないと考えていた。
なのに、今ここでドロドロとした感情を隠して笑う自分は果たしてカヴァネスにふさわしい人間なのだろうかと自己嫌悪に陥りそうになる。
それがばれてしまわないように、シェリーは淡々と食事を口元へ運んだ。
やがて食事が終わり、紅茶を飲んでひと息ついていると前王妃は突然、「そうだわ!」と両手を叩いて閃いたとでも言いたげに瞳を輝かせる。
その表情が新しい発見をしたときのアルファスにそっくりで、毒気を抜かれたシェリーは思わずクスッと笑みをこぼして尋ねる。